第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本支援工学理学療法学会 一般演題ポスター
工学P05

2016年5月28日(土) 14:50 〜 15:50 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-SK-05-1] 日常生活活動における短下肢装具に求められる機能の比較検討

理学療法士と装具使用者へのアンケート調査より

尼子雅美1,2, 隆島研吾2, 髙木峰子2, 島津尚子2, 斎藤祐美子1 (1.渕野辺総合病院リハビリテーション室, 2.神奈川県立保健福祉大学保健福祉学研究科)

キーワード:日常生活活動, 短下肢装具, 脳卒中

【はじめに,目的】

脳卒中片麻痺者の下肢装具に関して,自宅内での使用率が低いと報告されており装具装着によるADLの不便さがその理由の一つとして挙げられている。作製にあたり“退院後の生活環境を十分に考慮”することは必須だが,装具作製者側が想定したADLと装具使用者が実際に必要としているADL場面が異なっているのではないかと考えられた。そこで本研究は作製側である理学療法士(以下PT)の想定するADLと,使用者が退院後の生活の中で下肢装具に求める機能の捉え方の差異を明らかにすることを目的とした。


【方法】

対象は在宅脳卒中片麻痺者の短下肢装具使用者と回復期リハビリテーション病院勤務のPTとし,郵送法を用いたアンケート調査(無記名,自己記入式)を実施した。歩行状況と各ADL場面(全25項目)における装具の必要度について回答を求めた。分析は歩行状況別にPT・使用者間で装具の必要度について比較検討した。統計解析にはχ2検定を用い,有意水準は5%とした。


【結果】

1.アンケート回収率

使用者は27.7%(83名/300名),PTは58.3%(174名/300名)であった。

2.各ADL場面における装具の必要度について

屋外歩行自立群では使用者・PTともに歩行や段差昇降でのみ装具を必要と一致していた。屋内歩行自立群は,9項目において有意差を認め,PTはベッドから立ち上がる,歩行,荷物歩行で必要と回答し,使用者側は車椅子移動,食事,整容,更衣上,便座に座る,洗体で必要と回答した。介助歩行・車椅子移動の群では,3項目において有意差を認め,PTはベッドから立ち上がる,ベッドへ移る項目で必要と回答し,使用者側は洗体動作においてPTより必要と回答した。


【結論】

ADL場面での下肢装具の必要度は,歩行状況によって異なり,屋内歩行自立群,介助歩行・車椅子移動の群にはPT・使用者間に違いを認めた動作があった。屋外歩行自立群ではPTも使用者も歩行能力向上が目的と合致しており,高い使用率を報告した先行研究を支持する結果であった。屋内歩行自立の群では歩行・ベッドからの立ち上がりで使用者は必要度を低く評価しており,PTに比して立ちしゃがみの困難さ,自宅内環境による歩行の捉え方の違いが影響したと考えられた。また使用者は車椅子座位やセルフケア動作で装具が必要と捉えており,下肢の固定や矯正,安定性向上の機能をもつ装具や長時間履きやすい装具を必要としていた。さらに使用者はPTの想定よりも洗体動作で装具を必要としており,安定性向上の機能を持った装具が必要とされているのではないかと考えられた。

自宅内での装具使用を考えた際,歩行用のみでなく各ADL場面に適した装具作製が新たに求められていることが示唆された。