第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本小児理学療法学会 一般演題ポスター
小児P02

Fri. May 27, 2016 4:30 PM - 5:30 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-SN-02-4] 筋ジストロフィー患者における客観的筋力測定

清野緒珠1, 安部千秋1, 川村健太郎2, 堀尾嘉幸3, 小塚直樹4 (1.札幌医科大学大学院保健医療学研究科, 2.札幌医科大学大学院医学研究科, 3.札幌医科大学医学部医学科基礎医学部門講座薬理学講座, 4.札幌医科大学保健医療学部理学療法学科理学療法学第一講座)

Keywords:筋ジストロフィー, 筋力測定, 客観的評価

【はじめに,目的】

筋ジストロフィー(Muscular Dystrophy:MD)患者に対する理学療法において,経時的な身体状況の把握や治療介入の効果判定として用いられる筋力測定は重要である。従来は主にMMTが用いられたが,それは検者の主観的要素が強く客観性に欠けている。今回,MD患者の再現性が示されているHand Held Dynamometer(HHD)や握力計,ピンチ力計を用いてMD患者の筋力を測定した。


【方法】

対象はDuchenne型(DMD)5例,Becker型(BMD)4例の計9例であった。平均年齢は27.46±11.78歳,平均体重は51.73±15.29kgであり,厚生省分類ステージではIIが2例,IIIが2例,VIが1例,VIIIが4例であった。呼吸器の使用は1例(23歳)で非侵襲的換気療法(17歳~夜間のみ,19歳~終日使用),1例(40歳)で侵襲的換気療法(27歳に気管切開し現在も使用)であった。筋力測定は握力計にて手指把握力,ピンチ力計にて母指と示指のピンチ力,HHDにて肩関節挙上・股関節屈曲力を測定した。測定肢位は,端座位または車椅子座位にて実施した。測定は一箇所につき2回ずつ行い,最大値を結果として用いた。拘縮による制限や代償動作を完全に除いた関節運動を行うことは困難であったため,主動作筋以外の作用を含めた筋力を測定することとした。


【結果】

ピンチ力以外の測定において,筋力低下により一部の症例で筋力を測定することができなかった。握力はDMDの2例を除いた7例において,右8.79±10.19(1.0-27.5)kg,左8.36±10.55(0.5-27.5)kgであった。ピンチ力はそれぞれ右2.42±2.22(0.3-6.2)N,左2.07±2.15(0.1-6.2)Nであった。肩関節挙上はDMD1例を除いた8例において,右9.70±7.12(1.5-22.2)kgf,左9.38±8.37(1.5-27.6)kgf,股関節屈曲はDMD4例を除いた5例において,右12.18±6.01(6.8-19.7)kgf,左13.14±8.40(5.8-25.5)kgfであった。


【結論】

本研究は,MD患者の客観的な筋力測定を行った。握力の測定は各個人に合わせて機器の幅を調節したが,手指の拘縮のため一部の症例では把握すること自体が困難であった。測定可能な症例では,ステージが低い,すなわち運動能力が高い症例ほど,筋力が高いことが示された。ピンチ力でも同様に,ステージが低い症例で筋力が強いことが示された。肩関節挙上の測定が不可能であった症例は,侵襲的換気療法を行って13年経過するDMD患者であり,他の症例に比較して呼吸筋を含む全身の筋変性が進んでいたため,ほとんどの自動運動が困難であった。股関節屈曲においては,ステージVIIIの症例は測定が不可能であった。腸腰筋は座位保持に必要な筋であるため,座位保持困難となるステージVIIIで測定が不可能になったと考えられる。今回,病状の進行に伴った制限はあるものの,MD患者に対し客観的評価である握力計やピンチ力計,HHDを用いて筋力評価を行うことが可能であった。この結果は,今後の臨床評価において,経過を追うことや能力を評価する上での参考値となると考えられる。