第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本地域理学療法学会 一般演題ポスター
地域P05

Fri. May 27, 2016 4:30 PM - 5:30 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-TK-05-2] 頚髄損傷者の就労を目的とした植物工場の実践的な作業量における身体面・心理面への影響

岡原聡1,2, 奥田邦晴1, 片岡正教1, 尾上美有紀1, 島雅人3, 大原均4, 宮垣慶子5 (1.大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科, 2.大阪府立急性期・総合医療センター, 3.大阪保健医療大学, 4.株式会社椿本チエイン, 5.大和ハウス工業株式会社)

Keywords:頚髄損傷, 就労, 植物工場

【はじめに,目的】

頚髄損傷者の就労は,QOLや身体的・心理的健康の向上に関係することからリハビリテーションの重要な目標の一つとされている。しかし,Lidalらは世界の脊髄損傷者の就労率が21%-67%であり,なかでも頚髄損傷者の就労率がさらに低く,就労を促進する取り組みが必要であることを報告している。我々が提唱する完全人工光型植物工場は,軽負荷かつ車椅子座位での農作業が可能になるため,重度障がい者の雇用促進,職域拡大,就労賃金の向上を図れる可能性がある。

本研究では,小~中規模の植物工場における就労を想定した作業量を課題に設定し,頚髄損傷者における身体面・心理面への影響を作業時間,自覚的疲労感,筋活動,気分状態の変化を測定し,健常者との比較を踏まえ検討した。


【方法】

対象は,男性第6-8頚髄損傷者5名,健常者10名の2群とした。

作業課題は,縦30cm×横60cmのスポンジに種を蒔く播種,縦50cm×横50cmのトレーに苗を植える移植,トレーに植えられた収穫用レタスを刈り取る収穫の各作業を150株分行わせた。作業時間は,各作業時間の和を算出した。自覚的疲労感は,Visual Analog Scale(VAS)を用いて,各作業前後の変化を求め平均値を算出した。筋活動は,表面筋電計(Noraxon社製)を用いて作業中の筋電図電位を記録し,作業開始から作業終了までを解析区間とした。対象筋は,利き手側の僧帽筋上部,三角筋前部,上腕二頭筋の3筋とした。測定波形は整流化し,各筋の最大随意収縮を基準に正規化(%MVC)し,作業全体の平均%MVCを求めた。また,心理面ではPOMS短縮版を用いて作業前後の活気と疲労を点数化し,変化値を算出した。統計処理は,2群間の比較をMann-Whitney U-testを用い,有意水準を5%未満とした。


【結果】

健常者群は全作業時間1005.5±133.5秒,VAS平均値1.7±1.2cm,平均%MVC値の僧帽筋上部10.8±4.1%,三角筋前部9.3±3.9%,上腕二頭筋4.2±1.8%,POMSの作業前後の変化値が活気-6.3±5.0点,疲労1.4±5.3点であった。

頚髄損傷者群は,全作業時間2628.0±1014.8秒,VAS平均値4.7±1.8cm,平均%MVC値の僧帽筋上部15.3±6.8%,三角筋前部14.8±12.5%,上腕二頭筋2.6±1.6%,POMSの作業前後の変化値が活気5.8±5.1点,疲労7.8±8.8点であった。

健常者と頚髄損傷者では,作業時間,VAS平均値,POMS変化値の活気において有意な違いがあった。


【結論】

本研究により,第6-8頚髄損傷者でも植物工場の実践的な作業が可能であり,その作業時間が健常者の3倍以内で行えることが分かった。一方,自覚的疲労感において頚髄損傷者が健常者に比べ有意に高く,僧帽筋上部と三角筋前部の上肢挙上に関わる筋群の活動値が15%MVC前後の値を示したことより,頚髄損傷者の快適な就労に向けて作業効率の向上や上肢の負担を軽減できる補助具の開発を進める必要がある。また,植物工場の作業を通して頚髄損傷者の活気が向上する傾向から心理的効果が期待できる。