第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本地域理学療法学会 一般演題ポスター
地域P05

Fri. May 27, 2016 4:30 PM - 5:30 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-TK-05-4] 重度身体障がい者がICTを活用し機能改善と社会参加を獲得した一症例

社会資源の制限が与える影響も含めて

村木貴洋 (訪問看護ステーションホウエイ)

Keywords:重度身体障がい者, ICT(情報通信技術), 社会参加

【はじめに,目的】

寝たきり状態で在宅生活を過ごす重度身体障がい者(以下障がい者)が社会参加や活動・役割を見出す事は難しく,廃用性機能低下や社会との疎外感を生み心理的鬱状態による引きこもりを招く可能性は高い。訪問リハビリでは,このような対象者に対して機能向上は当然であるが様々なツールを使用した生きがいを提供していく事も重要である。

今回ICTを効果的に使用し高度な社会生活の獲得が行えた一症例を通じ,ICT導入が齎す機能改善・社会参加獲得の可能性と社会資源の制限が与える影響について報告する。




【方法】

症例は40歳(男性)。20X年に脳幹梗塞を発症し重度四肢麻痺で発話は不可。20X年+6Mリハビリテーション病院から自宅復帰。主介護者は両親(ICT歴無し)。20X年+7M訪問リハビリ開始。Br-SはIレベル。FIM47点(運動:13点,認知:34点)。意思疎通は眼球運動と瞬きでYES/NOの方法。頚部機能は回旋右40°左20°で側屈を伴う共同的な動きで,頭部空間保持は不可。頚部回旋機能・耐久性向上,四肢・体幹機能低下予防,コミュニケーションツール獲得を目標に介入。20X年+10Mに補装具給付で意思伝達装置(伝の心)とポイントタッチスイッチが給付される。機器セッティングは両親が行い,頚部右回旋で入力。同時期に外出に向けて車椅子のシーティング調整と住居環境の整備を行う。20X年+19Mに左中指MCP屈曲10°の随意的な動きが見られファイバースイッチ導入し,機能向上に向けポイントタッチスイッチと併用しての使用を勧める。20X年+29Mに左中指MCP屈曲60°となりPPSスイッチ導入。給付以外のスイッチは二箇所のICTサポート会社から貸与され,適合を総合的に判断し補装具の給付申請を行う。




【結果】

介入前と比較しFIM点数の変化は無いが左中指随意性向上と頚部回旋機能向上(右70°左60°,頭部空間保持可能)によりスイッチ選択肢の多様化と操作性向上を認めた。使用目的は単純な意思表示の使用からパソコン機能としての使用が中心となり,SNSを利用し介護者以外との交流が増え外出機会が増加した。しかし症状に応じたスイッチ変更の補装具給付は申請許可が下りず,意思伝達装置も居宅以外で使用した際の修理給付は行えない等の返答を受ける。




【結論】

本症例は介入により機能改善が見られ長時間の機器使用が可能となり,ネット社会で積極的に情報取集やSNSを利用し複数人との社会的交流が増えた事で,多数の講演活動や他障がい者へのピアサポートを行う等の,高度な社会参加を通して自己の役割を見出し生きがいと外出機会を獲得した。

そこに機能代行や能力補完を行うはずの補装具給付の壁が生じる事で,機能改善や社会参加にも影響を及ぼし,地域や疾患名によっても事実上一律化されていない障がい者の社会資源制度の是正が必要になると考える。ICT導入は障がい者の横断的な研究・調査も行え,障がい者自身の社会資源制度議論への参画も可能と考られる。