第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本地域理学療法学会 一般演題ポスター
地域P08

2016年5月28日(土) 16:00 〜 17:00 第10会場 (産業振興センター 2階 セミナールームB)

[P-TK-08-1] 介護老人保健施設における車椅子駆動状況と“しているADL”の関連について

小林萌美, 福田光梨, 鈴木学 (群馬パース大学保健科学部理学療法学科)

キーワード:高齢者, しているADL, 車椅子駆動状況

1.はじめに

介護老人保健施設および特別養護老人施設利用者の日常生活活動(以下,ADL)検査において,“しているADL”と“できるADL”の埀離がよく見受けられる。特に移動能力が車椅子レベルの利用者において当然可能と思われるADLを実際にはしていない,という例は珍しくない。これらの要因として,過介護,マンパワー不足による業務効率,転倒リスクの回避などが挙げられる。ADLと移動能力に関する先行研究では,介護老人保健施設におけるADL能力と移動能力に相関があると報告している。しかし,車椅子駆動状況によるADLの差異および相関についての報告は少ない。

本研究は,現代の介護老人保健施設における車椅子駆動状況とADL実施状況との関係を検討し,車椅子レベルでのADL指導の一助とするものである。



2.方法

対象はA県内の介護老人保健施設の車椅子利用者14名とした。移動手段およびADLに関してアンケート用紙を用いて面接方式による聞き取り調査を行った。車椅子駆動状況は,3段階で3.自走可能,2.一部自走可能,1.自走不可能と判定した。慶応義塾大学月が瀬リハビリテーションセンターの機能的自立度評価表(FIM:Functional Independence Measure)を採用し,ADL11項目(食事,整容,入浴,更衣上位,更衣下位,トイレ動作,排尿,排便,ベッドから車椅子への移乗動作,便器への移乗動作,浴槽・浴室への出入り)を7段階評価(7=完全自立,6=修正自立,5=監視,4=最小介助,3=中等度介助,2=最大介助,1=全介助)で点数化した。統計処理はスピアマンの順位相関分布を用いて両者の関係について検討した。統計ソフトはSPSSstatistics20を使用し,有意確率は5%未満とした。

3.結果

14名中14名からアンケートで回答を得た。対象者の属性は男性8名,女性6名,年齢78.7±10.4歳。車椅子駆動状況は,自走可能が6名,一部自走可能が6名,自走不可能が2名であった。各ADLの平均値は3.38~6.21の範囲であり,自走可能群4.00~6.50,一部自走可能群2.17~6.67,自走不可能群1.00~7.00であった。車椅子駆動状況はトイレ動作との間(ρ=0.59)には有意な正の相関はみられたが,他のADLとの間には有意な相関はみられなかった。

4.考察

今回の結果より,トイレ動作にのみ車椅子駆動状況とFIM得点の間に有意差がみられた。トイレ動作や入浴動作においては移動・移乗動作が関係するが,入浴に関しては車椅子駆動状況に関わらず,機械浴を利用している傾向が関係していると考える。しかし,トイレ動作に関しては施設のマンパワー不足により,車椅子駆動可能な者に対しては介入できない状況になっていると考える。一般的に老人保健施設においてはスタッフ不足によるマンパワー不足により,自立可能であるADLにおいても過介助にならざるを得ない状況になってしまう現状が関係しているため,その他のADLに関しても例外なく過介助になっていると考える。