[P-TK-09-1] 軽度要介護高齢者,重度要介護高齢者の要介護度改善に影響を及ぼす運動機能
7096名における2年間の追跡調査
Keywords:要介護高齢者, 要介護度改善, 運動機能
【はじめに,目的】
介護保険財政上,要介護状態をどのように改善・維持するかという点が政策上,非常に重要になってきているが,要介護高齢者の改善に関連する運動機能について検討した報告は見当たらない。そこで本研究では,要介護1,2の軽度要介護高齢者(以下,軽度),要介護3~5の重度要介護高齢者(以下,重度)を対象に要介護度の改善に影響を与える運動機能を分析し,介護予防に対する効果的なサービス提供につなげていくことを目的とした。
【方法】
対象は通所介護サービスを2年以上継続して利用していた軽度要介護高齢者4893名(年齢81.1±6.6歳,男性1891名,女性3002名),重度要介護高齢者2203名(年齢81.7±7.1歳,男性886名,女性1317名)とした。測定項目は,握力,chair stand test(CST),開眼片足立ち,6m通常歩行速度,timed up & go test(TUG)を用いた。測定の信頼性を高めるためmental status questionnaire(MSQ)を用い,誤答数が3以上である者は除外した。軽度,重度それぞれに関して,ベースライン時から2年間で要介護度が改善した群を改善群,維持または悪化した者を維持・悪化群として2群に分けた。軽度・重度において,群間における各変数の差を比較するため単変量分析を行った。有意な関連が認められた運動機能に関してはcut-off値を算出し,測定結果をcut-off値未満の群,cut-off値以上の群の2群に分類した。年齢,性別,MSQを調整変数とし,それらに運動機能cut-off値分類を加えた独立変数,改善群,維持・悪化群を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。
【結果】
単変量分析の結果から,軽度では運動機能に関して群間で有意差は認められなかった。重度では,すべての運動機能において改善群が維持・悪化群に比べ有意に良い成績を示した。重度に関して,cut-off値は握力が13.5kg,開眼片足立ちが1.5秒,CST-5が14.9秒,歩行速度0.6m/s,TUG14.8秒であった。ロジスティック回帰分析の結果,重度に関しては握力,開眼片足立ちが重度化に影響を与える要因として抽出された。これらの要因の改善に対するオッズ比(odds ratio:OR)と95%信頼区間(confidence interval:CI)は,握力(OR 1.44,95%CI 1.14-1.81,P<0.01)開眼片足立ち(OR 1.39,95%CI 1.12-1.71,P<0.01)であった。
【結論】
軽度の改善に影響を及ぼす要因として,運動機能は抽出されなかった。軽度からの改善には,福祉用具や自宅環境に対するアプローチ,認知機能面の改善等がより影響を及ぼしている可能性が考えられる。重度の改善に影響を及ぼす要因として,握力,片足立ちが抽出された。重度要介護高齢者では,下肢筋力の低下が進行していても,握力や短時間の片足立ち能力が起居動作や基本的日常生活活動能力の改善につながり,それらが要介護度の改善にも影響を及ぼすことが示唆され,重度要介護高齢者に対する運動機能検査とアプローチの必要性が窺える。
介護保険財政上,要介護状態をどのように改善・維持するかという点が政策上,非常に重要になってきているが,要介護高齢者の改善に関連する運動機能について検討した報告は見当たらない。そこで本研究では,要介護1,2の軽度要介護高齢者(以下,軽度),要介護3~5の重度要介護高齢者(以下,重度)を対象に要介護度の改善に影響を与える運動機能を分析し,介護予防に対する効果的なサービス提供につなげていくことを目的とした。
【方法】
対象は通所介護サービスを2年以上継続して利用していた軽度要介護高齢者4893名(年齢81.1±6.6歳,男性1891名,女性3002名),重度要介護高齢者2203名(年齢81.7±7.1歳,男性886名,女性1317名)とした。測定項目は,握力,chair stand test(CST),開眼片足立ち,6m通常歩行速度,timed up & go test(TUG)を用いた。測定の信頼性を高めるためmental status questionnaire(MSQ)を用い,誤答数が3以上である者は除外した。軽度,重度それぞれに関して,ベースライン時から2年間で要介護度が改善した群を改善群,維持または悪化した者を維持・悪化群として2群に分けた。軽度・重度において,群間における各変数の差を比較するため単変量分析を行った。有意な関連が認められた運動機能に関してはcut-off値を算出し,測定結果をcut-off値未満の群,cut-off値以上の群の2群に分類した。年齢,性別,MSQを調整変数とし,それらに運動機能cut-off値分類を加えた独立変数,改善群,維持・悪化群を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。
【結果】
単変量分析の結果から,軽度では運動機能に関して群間で有意差は認められなかった。重度では,すべての運動機能において改善群が維持・悪化群に比べ有意に良い成績を示した。重度に関して,cut-off値は握力が13.5kg,開眼片足立ちが1.5秒,CST-5が14.9秒,歩行速度0.6m/s,TUG14.8秒であった。ロジスティック回帰分析の結果,重度に関しては握力,開眼片足立ちが重度化に影響を与える要因として抽出された。これらの要因の改善に対するオッズ比(odds ratio:OR)と95%信頼区間(confidence interval:CI)は,握力(OR 1.44,95%CI 1.14-1.81,P<0.01)開眼片足立ち(OR 1.39,95%CI 1.12-1.71,P<0.01)であった。
【結論】
軽度の改善に影響を及ぼす要因として,運動機能は抽出されなかった。軽度からの改善には,福祉用具や自宅環境に対するアプローチ,認知機能面の改善等がより影響を及ぼしている可能性が考えられる。重度の改善に影響を及ぼす要因として,握力,片足立ちが抽出された。重度要介護高齢者では,下肢筋力の低下が進行していても,握力や短時間の片足立ち能力が起居動作や基本的日常生活活動能力の改善につながり,それらが要介護度の改善にも影響を及ぼすことが示唆され,重度要介護高齢者に対する運動機能検査とアプローチの必要性が窺える。