[P-YB-01-3] 長期入院中の統合失調症患者に対する転倒予防対策の効果
キーワード:統合失調症, 運動療法, 転倒予防
【はじめに,目的】
統合失調症患者は認知機能障害や向精神薬の副作用など,多くの転倒リスクを有するが,これまで統合失調症患者に運動療法を含めた転倒予防対策を行って長期間経過を追った例はない。本稿は,長期入院中の統合失調症患者に対して転倒予防対策を10年間継続した結果に基づいて,予防対策の効果を検証し,より有効な対策を検討することを目的とする。
【方法】
対象は,転倒予防対策を開始した2002年8月1日の時点で,当院の精神科に半年以上入院中の自立歩行可能な統合失調症患者113名(M63,F50)である。方法は,2001年2月から2012年7月末までの10年6ヶ月間に提出された転倒事故に関するアクシデントレポートを毎月集計する調査と,毎年8月に1年分の看護記録を見直す二重調査を実施した。調査項目は,基礎情報,向精神薬処方量,転倒件数である。転倒予防対策は,全対象者に転倒リスクの評価,環境整備,服薬調整を実施し,転倒リスクの高い方や希望者に運動療法を実施した。解析は,ウィルコクソンの符号付順位検定,反復測定分散分析,多重比較はScheffe法を用いた。
【結果】
対象者のうち半年間,継続して運動療法に参加した方は47名(以下,参加群),不参加だった方は66名(以下,不参加群)であった。参加群は整形外科疾患の既往を有する方が多く,約2割が転倒経験者で,介入前から転倒リスクの高い群であった。両群の介入前後半年間の平均転倒率((転倒件数/観測日数)×1000日)を比較すると,参加群は2.7から1.4に低下し,有意傾向がみられ(p=0.08),不参加群では0.3から,1.9に有意に上昇していた(p<0.05)。対象者のうち,3年間継続して対象となった方は参加群41名,不参加群59名であった。両群の各年毎の年間平均転倒率に反復測定分散分析を行った結果,参加群の転倒率の推移に有意な変化はなく,不参加群では転倒率が,0.8,1.3,2.0と年々上昇し,被験者内効果の検定で有意傾向がみられた(p=0.057))。多重比較の結果では,各年間に有意差はなかった。10年間継続して対象となった方は参加群11名,不参加群36名であった。両群の各年毎の年間平均転倒率に反復測定分散分析を行った結果,転倒率は上昇傾向にあり,被験者内効果の検定で有意差がみられた(p<0.05)。多重比較の結果では,各年間に有意差はなかった。
【結論】
長期入院中の統合失調症患者に転倒予防対策を実施した結果,運動療法不参加群では転倒率が年々上昇していたことから,転倒リスクの評価,環境整備,服薬調整のみでは効果が無く,これらに加えて運動療法を実施すると,転倒率の上昇を抑制し,その効果が3年間は持続することが示唆された。しかし,長期間経過を追うと,加齢や閉鎖的な環境での生活なども影響して,運動療法参加群でも転倒が増加することが分かった。
統合失調症患者は認知機能障害や向精神薬の副作用など,多くの転倒リスクを有するが,これまで統合失調症患者に運動療法を含めた転倒予防対策を行って長期間経過を追った例はない。本稿は,長期入院中の統合失調症患者に対して転倒予防対策を10年間継続した結果に基づいて,予防対策の効果を検証し,より有効な対策を検討することを目的とする。
【方法】
対象は,転倒予防対策を開始した2002年8月1日の時点で,当院の精神科に半年以上入院中の自立歩行可能な統合失調症患者113名(M63,F50)である。方法は,2001年2月から2012年7月末までの10年6ヶ月間に提出された転倒事故に関するアクシデントレポートを毎月集計する調査と,毎年8月に1年分の看護記録を見直す二重調査を実施した。調査項目は,基礎情報,向精神薬処方量,転倒件数である。転倒予防対策は,全対象者に転倒リスクの評価,環境整備,服薬調整を実施し,転倒リスクの高い方や希望者に運動療法を実施した。解析は,ウィルコクソンの符号付順位検定,反復測定分散分析,多重比較はScheffe法を用いた。
【結果】
対象者のうち半年間,継続して運動療法に参加した方は47名(以下,参加群),不参加だった方は66名(以下,不参加群)であった。参加群は整形外科疾患の既往を有する方が多く,約2割が転倒経験者で,介入前から転倒リスクの高い群であった。両群の介入前後半年間の平均転倒率((転倒件数/観測日数)×1000日)を比較すると,参加群は2.7から1.4に低下し,有意傾向がみられ(p=0.08),不参加群では0.3から,1.9に有意に上昇していた(p<0.05)。対象者のうち,3年間継続して対象となった方は参加群41名,不参加群59名であった。両群の各年毎の年間平均転倒率に反復測定分散分析を行った結果,参加群の転倒率の推移に有意な変化はなく,不参加群では転倒率が,0.8,1.3,2.0と年々上昇し,被験者内効果の検定で有意傾向がみられた(p=0.057))。多重比較の結果では,各年間に有意差はなかった。10年間継続して対象となった方は参加群11名,不参加群36名であった。両群の各年毎の年間平均転倒率に反復測定分散分析を行った結果,転倒率は上昇傾向にあり,被験者内効果の検定で有意差がみられた(p<0.05)。多重比較の結果では,各年間に有意差はなかった。
【結論】
長期入院中の統合失調症患者に転倒予防対策を実施した結果,運動療法不参加群では転倒率が年々上昇していたことから,転倒リスクの評価,環境整備,服薬調整のみでは効果が無く,これらに加えて運動療法を実施すると,転倒率の上昇を抑制し,その効果が3年間は持続することが示唆された。しかし,長期間経過を追うと,加齢や閉鎖的な環境での生活なども影響して,運動療法参加群でも転倒が増加することが分かった。