第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本予防理学療法学会 一般演題ポスター
予防P03

2016年5月27日(金) 11:50 〜 12:50 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-YB-03-3] 軽度認知障害を有する高齢者では遅延再生課題中の前頭前野における脳血流が低下する

上村一貴1, 島田裕之2, 牧迫飛雄馬2, 土井剛彦2, 堤本広大2, 朴眩泰3,4, 梅垣宏行5, 葛谷雅文1,5, 鈴木隆雄4 (1.名古屋大学未来社会創造機構, 2.国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター予防老年学研究部, 3.東亜大学, 4.国立長寿医療研究センター, 5.名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学)

キーワード:近赤外線分光法(NIRS), 認知機能, 脳活動

【はじめに,目的】

アルツハイマー型認知症の前駆症状とされる軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)は,早期発見と予防的介入により,認知症への進行を防ぐことが重要な段階とされる。近赤外分光法(near-infrared spectroscopy:NIRS)は,非侵襲的に脳血流動態を分析する神経画像検査であり,比較的安価で,可搬性や測定自由度が高いという利点から,MCIの診断補助ツールとしての応用が期待される。本研究の目的は,NIRSの診断補助ツールとしての有用性の検証に向けて,MCIを有する高齢者と健常高齢者を対象に,単語の記憶および遅延再生課題中の脳血流動態を測定し,脳活動の差異を明らかにすることとした。

【方法】

対象は,Petersenの定義によりMCIと判定される高齢者64名(平均71.8歳),および年齢,性別に差のない66名の健常高齢者(平均71.7歳)とした。単語の記憶と遅延再生の2つの課題中に,22チャンネル(ch)のNIRS(FOIRE-3000,島津社製)を用い,脳血流動態指標として酸素化ヘモグロビン濃度(oxygenated hemoglobin:oxy-Hb)を測定した。単語記憶課題では,「なるべくたくさん覚えてください。」と指示し,20秒間の間に10個の単語を,順にタブレット型PCにて表示した。記憶課題を3回繰り返し,20分後に,遅延再生課題を行った。遅延再生課題では,30秒間の間に,「先ほど覚えた単語をできるだけたくさん声に出して言ってください。」と指示し,単語数を課題成績として計測した。測定したoxy-Hbの課題前後の10秒間の値により補正を行った後,課題中におけるoxy-Hbの平均値を算出した。記憶課題については,3回の試行を加算平均した。統計解析は,教育年数を共変量とした共分散分析により,各chのoxy-Hbを,MCIと健常の2群間で比較した。

【結果】

記憶課題中のoxy-Hbでは,すべてのchにおいて有意差がみられなかった。一方,遅延再生課題中のoxy-Hbは,ch2(p<0.05),ch3(p<0.05),ch6(p<0.01),ch7(p<0.05),ch8(p<0.01)で有意差がみられ,前頭前野背外側部と推定される領域においてMCI群で低下していた。遅延再生課題の成績についても,MCI群は健常群に比較して有意に低下していた(p<0.001)。

【結論】

本研究では,NIRSを用いてMCI高齢者の脳血流動態を分析し,遅延再生課題中に前頭前野背外側部の領域で低下するという特徴が明らかになった。本研究の結果は,MCIの診断補助ツールとしてのNIRSの有用性を示唆し,認知症予防に向けた理学療法アプローチの構築に寄与するものと考える。