第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本予防理学療法学会 一般演題ポスター
予防P04

2016年5月27日(金) 11:50 〜 12:50 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-YB-04-1] 農業従事者用骨盤ベルトの効果の検証

松村純1, 三秋泰一2, 間所昌嗣1, 竹田幸恵1, 山川友和1, 宮田寛子1, 浦田恵1 (1.石川県済生会金沢病院, 2.金沢大学医薬保健研究域保健学系)

キーワード:骨盤ベルト, 三次元動作解析, 筋活動

【はじめに,目的】

農業従事者の高齢化が進んでおり,中腰姿勢での長時間の作業や重量物の運搬などにより,腰痛症を患っている者が少なくない。腰痛症の悪化を防ぐ目的でコルセットや骨盤ベルトを使用している者も多い。今回,農業従事者に対する作業負荷を軽減するために開発された2本のベルトから成る骨盤ベルトの効果を運動学的,筋電図学的に調べることを目的とした。

【方法】

対象は測定時点で腰痛のない健常男性8名(平均年齢32.6±3.5歳)とした。測定課題は野菜の引き抜き動作を想定し,左下肢をやや前方とした中腰姿勢で右前腕部を右大腿部に置き,左手で2kgの重量物を引き抜く動作とした。測定時には仙骨の高さで骨盤帯を巻く上位ベルトと,殿部の下を通り前方で上位ベルトの高さに止まる下位ベルトから成る骨盤ベルト(タケダ繊業株式会社製)を使用した(2本ベルト)。測定条件は,①2本ベルトの使用,②同じ材質で上位ベルトのみの骨盤ベルトの使用(1本ベルト),③骨盤ベルトの装着なし(ベルトなし)の3条件とし,順番をランダムにして計測を行った。測定には三次元動作解析装置VICON MX(Vicon Motion Systems社製)と床反力計(AMTI社製)2枚,表面筋電計MQ16(キッセイコムテック株式会社製)を用いた。三次元動作解析はサンプリング周波数100Hzとし,Plug in gait full body modelに基づく35点にマーカを貼付し,股関節伸展モーメントと骨盤前傾角度のピーク値を算出した。表面筋電図の測定筋は左右腰部脊柱起立筋,大殿筋,大腿直筋,半腱様筋とし,サンプリング周波数1000Hzで,トリガ信号により三次元動作解析装置と同期して計測した。得られた筋電波形は,全波整流後,各筋の最大等尺性収縮(MVC)時の値で正規化し%MVCを算出した。重量物に貼付したマーカを元に重量物が床から離れた時間を特定し,その時点より前1秒間を解析区間とした。統計処理は,JMP8.0を用いた。ベルトなしと1本ベルト,ベルトなしと2本ベルトで対応のあるt検定を行った。有意水準は5%とした。

【結果】

1本ベルト,2本ベルトともに左大殿筋と右大腿直筋でベルトなしより有意に低値を示した。右腰部脊柱起立筋がベルトなしと比べ2本ベルトにおいて有意に低値を示した。股関節伸展モーメントは条件間での差は認められなかった。骨盤前傾角度は2本ベルトで35.1±7.1°,1本ベルトで40.8±6.5°,ベルトなしで43.5±4.9°であり,ベルトなしと比べ2本ベルトにおいて有意に低値を示した。

右腰部脊柱起立筋の筋活動と骨盤前傾角度のみ,ベルトなしと比較して2本ベルトで有意に低値を示した理由として,2本ベルトでは下位ベルトの張力が骨盤後傾に作用し,過度な骨盤前傾を抑制した結果,右腰部脊柱起立筋の筋活動も低くなったことが考えられた。

【結論】

2本ベルトの使用は,腰部脊柱起立筋の筋活動を軽減させることが示唆された。