第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本予防理学療法学会 一般演題ポスター
予防P09

Sat. May 28, 2016 10:30 AM - 11:30 AM 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-YB-09-5] 栄養強化と理学療法がADL改善に著効した高齢サルコペニアの1例

宮澤佑治1, 新屋順子1, 田村浩章2 (1.浜松医療センターリハビリテーション技術科, 2.浜松医療センター消化器外科)

Keywords:BCAA, 理学療法, サルコペニア

【はじめに,目的】

原疾患の治療のために長期間の入院生活となった患者においては,回復しがたい廃用症候群に陥ることが多い。今回,Evans症候群による溶血性貧血の増悪のため入院し,胆嚢摘出術を施行され,自宅退院した症例を経験した。多職種との連携のもと,理学療法(以下PT)と並行し,栄養介入を行った経過から,廃用症候群におけるPTの在り方ついて検討を加え報告する。



【方法】

筋力測定として両側大腿四頭筋のMMT,利き手の握力,下腿最大径を測定し,体重はBody Mass Index(以下BMI)を算出し,ADLはBarthel Index(以下BI)で評価した。退院時と退院1か月後に有田らのHome Exercise Barrier Self Efficacy Scale(以下HEBS)を用いて運動に対する自己効力感を評価した。骨格筋指数(以下SMI)の測定にはIn Body S10(In Body社)を使用した。栄養強化のための分枝鎖アミノ酸(以下BCAA)2.8g/日を,190病日から退院時まで摂取した。



【結果】

症例提示;79歳男性,Evans症候群に対して在宅でステロイド内服治療していたが,溶血性貧血の増悪で緊急入院となりステロイドを増量した。14病日に胆石胆嚢炎を発症し,保存的治療を継続するも出血を伴う穿孔を来し,適宜腹腔ドレナージを施行した。長期の炎症の遷延,絶食,臥床状態で廃用症候群の進行が危惧され64病日でPT開始した。投与ステロイド量が漸減可能であり,自己免疫性溶血性貧血がコントロールされた状態にあったので入院130病日に胆嚢摘出術を施行した。術後は速やかに離床を開始し,修正Borg Scale3~5程度の運動強度を目標に,ADL訓練,立位困難時は斜面台を用いた立位訓練を実施した。190病日で栄養強化目的に,PT後のBCAA摂取を開始した。経過に伴い筋力,ADLは著明に改善し,杖使用にて連続歩行距離60m,入浴以外のADL自立に至った。退院前に外泊を行い,安全性を確認した上で,270病日で自宅退院となった。

評価項目の結果;以下(入院時/PT開始時/手術時/退院時),未測定時は-と表記する。

血液生化学検査;

ヘモグロビン(9.7/12.1/9.0/13.7)g/dl,アルブミン(4.3/2.3/2.9/3.4)g/dl,総蛋白(6.1/4.6/4.5/-)g/dl,C反応蛋白(0.4/2.41/0.33/0.03)g/dl

身体機能評価;

MMT右(-/2/3/5)左(-/2/2/4),握力(-/-/11.3/20.6)kg,下腿最大径右(-/-/24.5/28.5)cm左(-/-24.0/28.5)cm,SMI(-/-/4.29/4.83)kg/m2,BMI(23.8/26.7/18.3/20.3)kg/m2,BI(-/5/25/95)点,HEBS退院時30点,退院後1か月で24点であった。



【結論】

BCAAの摂取はサルコペニアの改善に有効であり,運動後の摂取が効果的とされている。BCAAの摂取タイミングを厳密に管理したうえで,PT強度を漸増することで炎症が遷延した高齢廃用症候群患者でも筋力,ADLの著明な改善をみた。その結果,長期間にわたる経過においても本人の高いモチベーションを維持する事ができ,在宅生活にも繋がる自己効力感を獲得し得たものと考えた。