第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本予防理学療法学会 一般演題ポスター
予防P16

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-YB-16-2] 運動機能の低下が要支援から要介護への移行に及ぼす影響

大規模集団における36か月間の縦断研究

波戸真之介1, 林悠太1, 今田樹志1, 小林修1, 島田裕之2 (1.株式会社ツクイ, 2.国立長寿医療研究センター)

キーワード:介護予防, 運動機能, 縦断研究

【はじめに,目的】

高齢者における身体的虚弱は生活機能を低下させる要因であり,介護予防のために積極的なアプローチを必要とされている。しかし,新規要介護者の発生や要介護状態の重度化に対する運動機能の影響は十分明らかになっていない点が多く,データの蓄積が課題と言える。そこで本研究の目的は,運動機能の低下が要支援から要介護への移行に及ぼす影響について,大規模集団に対する36か月間の追跡調査によって検討することとした。

【方法】

対象は,2006年9月から2013年9月において,全国のデイサービスを利用していた要支援高齢者3110名(平均年齢81.9±6.3歳,男性912名,女性2198名)とした。

調査は利用開始から直近の運動機能検査時をベースラインとし,握力,Chair Stand Test-5 times(CST),開眼片脚立ち時間,通常6m歩行速度,Timed Up and Go(TUG)を測定した。また,ベースラインより36か月間,毎月の要介護度を調査した。統計学的解析はCox比例ハザード回帰分析およびLog-rank検定を用いて,ベースラインにおける運動機能検査の結果が将来の要介護移行に及ぼす影響を検討した。

【結果】

36か月の調査期間で,要支援から要介護へ移行したのは2269名(73%)であった。

Cox比例ハザード回帰分析の結果,要介護への移行に有意に関連する項目として,握力(HR:0.97,95%CI:0.96-0.98,p<0.001),開眼片足立ち時間(HR:0.99,95%CI:0.99-1.00,p=0.037),TUG(HR:1.01,95%CI:1.01-1.02,p<0.001)が抽出された。抽出された3項目を四分位によって上位からI~IV群に分類したところ,最下位のIV群に分類される基準は握力で男性20kg以下または女性11kg以下,開眼片足立ち時間で男女ともに1秒以下,TUGで男性17.0秒以上または女性18.2秒以上であった。Log-rank検定により各群の要介護への移行率曲線を比較したところ,全検査項目においてIV群はI~III群よりも要介護移行率が有意に高かった。加えて,IV群に該当する項目数によって要介護への移行率曲線の比較を行ったところ,該当項目数0から3のすべての組み合わせで有意な差が認められ,IV群への該当項目数が多いほど要介護への移行率が高い結果を示した。

【結論】

筋力や立位バランス,移動能力が要支援から要介護への移行に影響を及ぼすことが大集団における縦断調査で確認された。また,著明に低下している運動機能項目が増えるほど要介護への移行率が向上したことから,要支援高齢者の重度化予防には多面的な運動機能検査と総合的な結果の判断が重要であることが示唆された。

今後は検査項目の組み合わせを考慮しつつ,軽度要介護状態からの重度化においても同様の傾向があるか検討することが課題と言える。