[P-YB-16-4] 個々の上肢に合わせて調整可能な接合部を組み入れた杖の開発に関する研究
Keywords:杖, 歩行, 廃用症候群
【はじめに】
歩行補助具である杖は,利便性が高く比較的金額が安価なため使用頻度が高い。しかし,疾患や加齢に伴う機能障がい,形態変化は個人差が大きいにもかかわらず,現在一般的に提供されているT字型杖は高さ調節しかできず,手や腕に疼痛や可動域制限など肢体が不自由な使用者にとって使用しづらいものである。杖を購入しても使い勝手が悪い,手首が痛いなどの理由から日常で利用していない患者も少なくない。装具は症状や機能にあわせて用いることの重要性は知られているが,その具体的な方法を示すまでは至っていない。また,杖を使用しての先行研究の多くは高さや種類の違いを比較するものであって,患者の上肢の関節に合わせて調節した報告は少ない。そこで本研究では,握り部分を個々人に合わせて調整可能な接合部を組み入れた杖(以下改良杖)を開発し,上肢の関節に疼痛や変形を有する患者に対して,従来型の杖と歩行パラメーターを比較し検討することとした。
【方法】
対象は,上肢の関節に疼痛や変形を有する患者10症例(女性9人,男性1人,年齢67±12.4歳)とした。杖は,普段使用している方の上肢で把持した。測定は,3軸加速度計による歩行周期変動(以下CV値)や体幹加速度の左右方向のRoot Mean Square(以下RMS),歩行速度などの歩行パラメーターを従来型の杖と比較した。3軸加速度計を対象者のヤコビー線上腰背部中央に専用ベルトにて固定し,測定を2回行った。対象者は,助走路と減速路2mずつ設けた14mの直進路を快適速度で歩行し,中間の10mの所要時間を計測した。歩行中の加速度データは,加速期と減速期の影響を考慮して,歩き始めの2歩と終わりの2歩を除いて1歩行周期時間を切り出した。測定したRMS,CV値,歩行速度は対応のあるt検定にて有意差を求めた。
【結果】
歩行速度は改良杖の方が速かったが有意差は認められなかった。RMSは,概ね同等の結果となり有意差が認められなかった。CV値は,改良杖が有意に低値(p<0.01)を示した。
【結論】
歩行速度とRMSは有意差は認められなかったが,CV値は改良杖が有意に低値を示した。CV値の低下は,改良杖を使うことで歩行リズムが改善し,安定性が向上したと考えた。しかし,RMSに有意差が認められなかったため,左右方向の動揺性以外での要因で歩行リズムが向上したと考えた。本研究にて作成した杖を使用することで外出機会が増え,生活範囲が拡大し活動量の増加がQOLの維持向上に繋がると考える。本研究の限界として,第一に,1施設における研究であり,症例数も少ないために,今後は多施設における研究が必要である。第二に,測定した歩行距離が10mと短かったため,今後は長時間で使用し,上肢への影響や他の歩行パラメーターなどを引き続き検討する必要がある。なお,本研究は公益財団法人フランスベッド・メディカルホームケア研究・助成財団の助成を受け行った。
歩行補助具である杖は,利便性が高く比較的金額が安価なため使用頻度が高い。しかし,疾患や加齢に伴う機能障がい,形態変化は個人差が大きいにもかかわらず,現在一般的に提供されているT字型杖は高さ調節しかできず,手や腕に疼痛や可動域制限など肢体が不自由な使用者にとって使用しづらいものである。杖を購入しても使い勝手が悪い,手首が痛いなどの理由から日常で利用していない患者も少なくない。装具は症状や機能にあわせて用いることの重要性は知られているが,その具体的な方法を示すまでは至っていない。また,杖を使用しての先行研究の多くは高さや種類の違いを比較するものであって,患者の上肢の関節に合わせて調節した報告は少ない。そこで本研究では,握り部分を個々人に合わせて調整可能な接合部を組み入れた杖(以下改良杖)を開発し,上肢の関節に疼痛や変形を有する患者に対して,従来型の杖と歩行パラメーターを比較し検討することとした。
【方法】
対象は,上肢の関節に疼痛や変形を有する患者10症例(女性9人,男性1人,年齢67±12.4歳)とした。杖は,普段使用している方の上肢で把持した。測定は,3軸加速度計による歩行周期変動(以下CV値)や体幹加速度の左右方向のRoot Mean Square(以下RMS),歩行速度などの歩行パラメーターを従来型の杖と比較した。3軸加速度計を対象者のヤコビー線上腰背部中央に専用ベルトにて固定し,測定を2回行った。対象者は,助走路と減速路2mずつ設けた14mの直進路を快適速度で歩行し,中間の10mの所要時間を計測した。歩行中の加速度データは,加速期と減速期の影響を考慮して,歩き始めの2歩と終わりの2歩を除いて1歩行周期時間を切り出した。測定したRMS,CV値,歩行速度は対応のあるt検定にて有意差を求めた。
【結果】
歩行速度は改良杖の方が速かったが有意差は認められなかった。RMSは,概ね同等の結果となり有意差が認められなかった。CV値は,改良杖が有意に低値(p<0.01)を示した。
【結論】
歩行速度とRMSは有意差は認められなかったが,CV値は改良杖が有意に低値を示した。CV値の低下は,改良杖を使うことで歩行リズムが改善し,安定性が向上したと考えた。しかし,RMSに有意差が認められなかったため,左右方向の動揺性以外での要因で歩行リズムが向上したと考えた。本研究にて作成した杖を使用することで外出機会が増え,生活範囲が拡大し活動量の増加がQOLの維持向上に繋がると考える。本研究の限界として,第一に,1施設における研究であり,症例数も少ないために,今後は多施設における研究が必要である。第二に,測定した歩行距離が10mと短かったため,今後は長時間で使用し,上肢への影響や他の歩行パラメーターなどを引き続き検討する必要がある。なお,本研究は公益財団法人フランスベッド・メディカルホームケア研究・助成財団の助成を受け行った。