第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本予防理学療法学会 一般演題ポスター
予防P19

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-YB-19-4] 転倒恐怖感と歩行中の体幹動揺との関連

―変形性膝関節症患者における検討―

岡智大1,2, 福元喜啓3, 久保宏紀1,4, 浅井剛3 (1.神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科, 2.あんしん病院リハビリテーション科, 3.神戸学院大学総合リハビリテーション学部, 4.伊丹恒生脳神経外科病院リハビリテーション部)

キーワード:変形性膝関節症, 転倒恐怖感, 体幹動揺

【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下:膝OA)患者は体幹の側方動揺が大きい歩容を呈する。また,転倒恐怖感(Fear of fall:以下FoF)がある高齢者は,ストライド時間のばらついた不安定な歩容になる。これらの歩容異常はどちらも転倒リスクと強く関連することから,膝OAを罹患しFoFのある高齢者はより転倒リスクの高まった歩容になっていると推測される。地域在住高齢者を対象とした研究では,FoFにより歩行中の体幹動揺が大きくなり転倒リスクが高まった歩容になることが明らかになっている。しかし,元々体幹動揺が大きくなっている膝OA患者を対象とした研究はない。以上より,本研究の目的は膝OA患者におけるFoFと歩行中の体幹動揺との関連を検討することとした。

【方法】対象者は膝OAを原疾患とする60歳以上の高齢女性41名とした。取り込み基準は内側型膝OA患者とし,除外基準は歩行に影響を及ぼす神経学的異常を有する者,杖や歩行補助具を使用している者とした。FoFの有無により対象者をFoFのない者20名(No-FoF群,年齢71.4±6.9歳),FoFのある者21名(FoF群,年齢73.1±7.2歳)に分類した。身体機能評価項目は膝関節可動域,膝関節伸展筋力,股関節外転筋力,歩行時痛とした。歩行測定では,快適速度での10m歩行を測定し,所要時間より歩行速度を算出した。その際に加速度センサを第3腰椎棘突起部(L3)と第7頸椎棘突起部(C7)に装着し,歩行中の体幹加速度および角速度を計測した。これらの値からケイデンス,ステップ長,ストライド時間の変動係数(Stride Time Variability以下:STV),前後方向と側方方向の5歩行周期の体幹の平均動揺量,矢状面と前額面上の平均軌跡長を求めた。統計学的解析は,データの正規性に応じてstudent t検定もしくはMann-WhitneyのU検定により群間比較を行った。さらに,体幹の平均動揺量と平均軌跡長についてSTV,歩行速度で調整した群間比較を行った。有意水準はいずれも5%とした。

【結果】基本属性,身体機能に両群間で有意な群間差を認めなかった。歩行データでは,FoF群がNo-FoF群よりL3側方移動量(p=0.04),L3軌跡長(前額面)(p<0.01),L3軌跡長(矢状面)(p<0.01),C7軌跡長(矢状面)(p<0.01)において,いずれも有意に低値となった。さらに,これらの歩容指標はSTV,歩行速度とは独立して転倒恐怖感と関連していた(L3側方移動量(p=0.04),L3軌跡長(前額面)(p=0.02),L3軌跡長(矢状面)(p=0.02),C7軌跡長(矢状面)(p=0.01))。

【結論】FoFのある膝OA女性は体幹動揺が減少し,体幹を固定させた姿勢制御をとることが示唆された。地域在住高齢者ではFoFにより体幹動揺は増大することが報告されているが,膝OA患者では元々体幹動揺が増大し歩行中の体幹の安定性が低下しているために,FoFにより体幹動揺が減少したと考えられる。本研究の結果は歩行観察においてFoFの有無を理解しておく重要性を示唆している。