第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本予防理学療法学会 一般演題ポスター
予防P20

Sun. May 29, 2016 11:10 AM - 12:10 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-YB-20-1] 身体・精神機能評価によるスコアリングが高齢者の転倒を予測する

安延由紀子1, 杉本研1, 井坂昌明2, 田中稔2, 藤本拓1, 前川佳敬1, 竹屋泰1, 山本浩一1, 楽木宏実1 (1.大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学, 2.大阪行岡医療大学医療学部理学療法学科)

Keywords:高齢者, 機能評価, 転倒

【はじめに,目的】

高齢者は,加齢性の身体変化や疾患等の影響により転倒し,要介護や寝たきりといった深刻な事態を引き起こすため,その対策が急務である。フレイルやサルコペニアといった概念は,そのハイリスク者を抽出する方法として普及してきており,その影響もあり高齢者の身体機能計測を行う施設が増加している。しかし,本邦におけるフレイルやサルコペニアの基準が未確立であるため,既に広く普及している高齢者総合機能評価(CGA)と身体機能評価を用いたスコアリングが,転倒既往と関連するか,また1年後の転倒予測において有用かについて検討した。


【方法】

当科に入院または通院中の65歳以上で,自立歩行可能かつ1年後までフォローし得た,連続117例(平均年齢76.4歳)を対象とした。測定項目は,身体計測に加え,身体機能として筋力(下肢筋力(等尺性膝伸展筋力),握力),バランス機能(片脚立ち時間,重心動揺検査(外周囲面積,総軌跡長)),10m最大歩行速度を測定し,筋量はBIA法により測定した。CGAとして認知機能検査(MMSE),ADL,うつ状態(GDS-15,以下GDS)などを評価,また運動習慣の有無とその内容,さらに後ろ向きに1年間の転倒有無を聴取した。転倒リスク評価として自記式アンケートにより転倒リスク指標(FRI)と転倒自己効力感(MFES)を評価した。1年後に同様の検査を行い,ベースラインにおける握力低下(男性26kg未満,女性18kg未満)または下肢筋力低下(体重比25%未満),歩行速度低下(男性1.2m/秒未満,女性1.1m/秒未満),認知機能低下(MMSE 23点以下),うつ傾向(GDS 6点以下)の有無により0~4点でスコア化(低下ありを1点)し,このスコアとベースラインにおける各因子,1年間の転倒有無との関連を検討した。


【結果】

下肢筋力を用いたスコアリング(A)は,スコアの上昇とともに片足立ち時間,外周囲面積,総軌跡長,転倒既往,FRI,MFESが悪化する有意な関連がみられ,握力を用いたスコアリング(B)は,2つ以上の重積から前述の因子との関連がみられた。1年間の転倒の有無についても,スコアリングAで1つ以上,Bで2つ以上の重積と関連し,複数回転倒の割合も増加した。転倒に対し,スコアリング要素のうち身体機能,精神機能のどちらの影響が強いかを検討したところ,特に転倒予測に関しては精神機能の寄与度が大きく,双方の併用が最も転倒予測能が高かった。


【結論】

既報では,筋力低下が転倒と最も関連する因子とされていたが,本検討では身体と精神の両機能評価の併用が,単独の評価と比較し転倒予測能が優れていることが示された。フレイルは,身体的,精神的および社会的側面の要素が含む概念であるが,まだ本邦では評価項目の確立には至っていない。本研究では提示したスコアリングがその代用として有用性が高いこと,また将来の転倒においては身体機能だけでなく,より多面的な評価や介入が求められることが示唆された。