[KS-3-3] 予測的姿勢制御と抑制機能の関連からみたステップ反応動作戦略
随意運動の際には,自身の動作により生じるバランスの崩れを予測し,制御しようとする準備的な姿勢調整が行われる。これは,予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustment;APA)と呼ばれ,皮質網様体路・網様体脊髄路を介して実現すると考えられており,情動や注意状態等により影響を受けると報告されている。発表者らは,APAに影響を与える因子の中でも特に,抑制機能に着目してこれまで研究を行ってきた。ステップ反応動作開始時に生じるAPAでは通常,体重成分をまず遊脚側に移動することで,重心を立脚側および前方へ推進させるための準備が行われる。一方,選択的注意を要するなど抑制機能に負荷がかかる状況では,APA開始時の最初の体重移動が反対側の立脚側に生じることがある。この現象は,APAエラーと定義され,ステップ動作遅延の主要因と考えられている。また,パーキンソン病患者のすくみ足時にも同様の現象が観察されている。発表者らは,抑制機能とAPAエラーの関連をより明確にすることを目的に,選択的注意を要する状況におけるステップ反応動作の動作戦略について検討した。その結果,ステップ反応動作の動作戦略は,一般的な座位での動作(ボタンスイッチ反応など)の動作戦略と異なることが明らかとなった。具体的には,座位での反応動作で左右の選択を要求される場合,運動準備を行わず反応動作を指示する視覚刺激を認知してから適切な動作を選択・開始するが,ステップ反応動作では,視覚刺激呈示前から反応測を選択し,それに伴うAPAが準備されると共に必要な時期まで発現が抑制されていること,さらに,視覚刺激が呈示された後,一度部分的にAPAを開始し,開始されたAPA反応を制御しつつ要求されている動作の選択を行っていることが示唆された。この戦略は素早く反応するための代償的な戦略と推測される。本発表では,これらの結果とともに理学療法分野における応用の可能性を紹介する。