[O-DM-01-2] 糖尿病は運動野の体部位支配領域を縮小させる
キーワード:運動野, 錐体路, 糖尿病
【はじめに,目的】
近年,我々は1型糖尿病ラットの腰髄に投射する錐体路細胞が脱落することを報告し,糖尿病患者の運動障害に中枢神経障害が関与する可能性を示した。脳卒中や脊髄損傷モデル動物を用いた研究では錐体路障害が運動野の体部位支配領域を変化させることが知られているが,糖尿病モデル動物において同様の現象が生じるのかは不明である。仮に,体部位支配領域に変化が生じるのであれば,糖尿病患者の運動障害を理解するための重要な知見になると考え,1型糖尿病モデルラットの運動野の体部位支配領域の変化を調べることとした。
【方法】
実験にはWistar系ラット24匹(雄,13週齢)を用いた。12匹のラットはStreptozotocinの腹腔内投与によって1型糖尿病を発症させて糖尿病群とし,残りの12匹には生理食塩水を腹腔内投与して,対照群とした。各群のラットは13週間(n=6)もしくは23週間(n=6)の飼育期間の後に,ケタミン・キシラジン混合麻酔下にて大脳を露出させ,運動野に刺入したタングステン微小電極から300Hz,持続時間200μsの電流(最大50μA)を100 ms流し,刺激領域が制御する身体部位を同定した。同様の刺激を500μm毎,合計96箇所に実施し,運動野全体を網羅する体部位支配領域の地図を作成した。また,脛骨神経を電気刺激して内側腓腹筋から誘発筋電図を記録し,運動神経伝導速度を算出した。各群の値の比較には二元配置分散分析を用い,下位検定にはBonferroni法による多重比較を用いた。
【結果】
一次運動野の後肢および体幹領域の面積は対照群に比較して病期13週から縮小し(P<0.01),病期23週では対照群の半分以下になった(P<0.01)。前肢領域は病期13週では変化せず,病期23週にてわずかに縮小した(P<0.05)。いずれの変化も病期との間に相互作用が認められた(P<0.01)。一方,運動神経伝導速度と最大誘発筋電図の振幅は対照群に比較して病期13週で減少し,その値は病期23週まで変化しなかった(P<0.01,相互作用なし)。
【結論】
本研究は糖尿病によって運動野の体部位支配領域が縮小することを初めて報告するものである。支配領域の縮小は後肢・体幹領域に顕著であり,昨年度,報告した腰仙髄に投射する錐体路細胞の脱落と良く合致する結果であった。しかし,前述した体部位支配領域の変化は細胞脱落が生じない前肢領域や病期13週の後肢領域にも観察されたため,その背景には錐体路細胞の脱落だけでなく,末梢神経障害などの要因が関連していると思われる。また,糖尿病患者において観察される筋力低下は下肢全体に及び,手袋・靴下型の感覚障害とは体部位表現が大きく異なることが知られていたが,運動後肢領域の縮小は下肢全体の筋力低下を合理的に説明し得るものである。
近年,我々は1型糖尿病ラットの腰髄に投射する錐体路細胞が脱落することを報告し,糖尿病患者の運動障害に中枢神経障害が関与する可能性を示した。脳卒中や脊髄損傷モデル動物を用いた研究では錐体路障害が運動野の体部位支配領域を変化させることが知られているが,糖尿病モデル動物において同様の現象が生じるのかは不明である。仮に,体部位支配領域に変化が生じるのであれば,糖尿病患者の運動障害を理解するための重要な知見になると考え,1型糖尿病モデルラットの運動野の体部位支配領域の変化を調べることとした。
【方法】
実験にはWistar系ラット24匹(雄,13週齢)を用いた。12匹のラットはStreptozotocinの腹腔内投与によって1型糖尿病を発症させて糖尿病群とし,残りの12匹には生理食塩水を腹腔内投与して,対照群とした。各群のラットは13週間(n=6)もしくは23週間(n=6)の飼育期間の後に,ケタミン・キシラジン混合麻酔下にて大脳を露出させ,運動野に刺入したタングステン微小電極から300Hz,持続時間200μsの電流(最大50μA)を100 ms流し,刺激領域が制御する身体部位を同定した。同様の刺激を500μm毎,合計96箇所に実施し,運動野全体を網羅する体部位支配領域の地図を作成した。また,脛骨神経を電気刺激して内側腓腹筋から誘発筋電図を記録し,運動神経伝導速度を算出した。各群の値の比較には二元配置分散分析を用い,下位検定にはBonferroni法による多重比較を用いた。
【結果】
一次運動野の後肢および体幹領域の面積は対照群に比較して病期13週から縮小し(P<0.01),病期23週では対照群の半分以下になった(P<0.01)。前肢領域は病期13週では変化せず,病期23週にてわずかに縮小した(P<0.05)。いずれの変化も病期との間に相互作用が認められた(P<0.01)。一方,運動神経伝導速度と最大誘発筋電図の振幅は対照群に比較して病期13週で減少し,その値は病期23週まで変化しなかった(P<0.01,相互作用なし)。
【結論】
本研究は糖尿病によって運動野の体部位支配領域が縮小することを初めて報告するものである。支配領域の縮小は後肢・体幹領域に顕著であり,昨年度,報告した腰仙髄に投射する錐体路細胞の脱落と良く合致する結果であった。しかし,前述した体部位支配領域の変化は細胞脱落が生じない前肢領域や病期13週の後肢領域にも観察されたため,その背景には錐体路細胞の脱落だけでなく,末梢神経障害などの要因が関連していると思われる。また,糖尿病患者において観察される筋力低下は下肢全体に及び,手袋・靴下型の感覚障害とは体部位表現が大きく異なることが知られていたが,運動後肢領域の縮小は下肢全体の筋力低下を合理的に説明し得るものである。