第52回日本理学療法学術大会

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » 口述発表

[O-KS-04] 口述演題(基礎)04

2017年5月12日(金) 16:50 〜 17:50 A4会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室301)

座長:中山 恭秀(東京慈恵会医科大学附属病院)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[O-KS-04-1] 慢性疼痛患者における交感神経変動と内受容感覚の関係性

西 勇樹1, 大住 倫弘2, 信迫 悟志1,2, 森岡 周1,2 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室, 2.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

キーワード:内受容感覚, 交感神経活動, 慢性疼痛

【はじめに,目的】慢性疼痛患者では交感神経活動の変調が生じやすいことが報告されている。さらに,交感神経活動の変調が生じやすい者は内受容感覚の感受性(以下,IS)が高いことが健常成人を対象にした研究で明らかにされている(Pollatos 2012)。我々も健常成人におけるISと交感神経変動の関係性を追試実験し,先行研究と同様にISが高い者は交感神経変動が生じやすいことを確認した(第51回日本理学療法学術大会)。本研究では,研究対象を慢性疼痛患者とし,慢性疼痛患者における交感神経変動の時間的変化とISの関係性を明らかにすることを目的とした。


【方法】対象は介護老人保健施設利用中の高齢者35名(男性7名,女性28名,平均年齢85.4±6.6歳)である。全被験者を疼痛罹患期間が6ヵ月以上の者を慢性疼痛群(n=21),それ以外の者をコントロール群(n=14)に分けた。ISを定量化するための心拍追跡課題では,一定時間(30,35,40,45s)手がかりなしで自分の心拍数を数える課題を各時間条件1試行ずつ実施した。痛み刺激は圧痛計(デジタルフォースゲージ)を用い,圧痛閾値までの刺激を与え,安静時及び圧痛時の自律神経活動を記録し,ローレンツプロット解析を行い(Toichi 1997),交感神経系指標(以下,CSI)を算出し,安静時・圧痛刺激時・圧痛刺激から1分後のCSI値を記録した。各時間条件におけるCSIを2群間で比較することに加え,各群におけるCSIを各時間条件間で比較した。また,各群におけるCSIの安静時と疼痛刺激時の差分とISとの相関関係を分析した。なお,有意水準は5%未満とした。


【結果】2群間比較の結果では,CSI(安静時,圧痛刺激時,一定時間経過後)に群間差を認めなかった。また,コントロール群におけるCSIの時間的変化において,安静時と圧痛刺激時に有意差を認めたが(p<.01),1分後のCSI値には有意差を認めなかった(p=.07)。一方,慢性疼痛群では安静時と比べ,圧痛刺激時のみならず1分後のCSI値にも有意差を認めた(p<.01)。安静時と疼痛刺激時の差分とISとの相関分析では,コントロール群においては有意な相関を認めなかったが(r=.23,p=.42),慢性疼痛群では負の相関が認められた(r=-.46 p<.05)。


【結論】慢性疼痛患者において,疼痛刺激による交感神経反応が大きく,その反応が一定時間経過後まで持続することが明らかとなった。さらに,疼痛刺激によって交感神経反応が生じやすい者ほどISが低いことが明らかとなった。これは健常成人における相関関係とは解離する結果であり,疼痛の慢性化に伴ったISの変容が,交感神経反応を生じやすくさせる要因となると示唆された。つまり,内受容感覚は自身の自律神経反応を的確に捉えて,それを制御するプロセスで重要な感覚であることが示唆された。