The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » 口述発表

[O-KS-04] 口述演題(基礎)04

Fri. May 12, 2017 4:50 PM - 5:50 PM A4会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室301)

座長:中山 恭秀(東京慈恵会医科大学附属病院)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[O-KS-04-6] 脳卒中片麻痺患者における低強度運動中のガス交換比による全身持久力の推定

木下 琴枝1, 小宅 一彰2,3, 小田 ちひろ4, 工藤 大輔1, 佐久間 達生1, 近藤 国嗣1, 大高 洋平1,5 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.信州大学大学院, 3.日本学術振興会, 4.早稲田大学大学院, 5.慶應義塾大学)

Keywords:呼気ガス分析, 最高酸素摂取量, エルゴメータ

【はじめに,目的】

脳卒中片麻痺患者に対する理学療法において,日常生活活動を最大限に回復させるために,全身持久力の把握は重要である。これまで,脳卒中片麻痺患者における全身持久力評価は漸増負荷試験を行い,最高酸素摂取量(Peak VO2)を測定してきた。この手法では,ガス交換比が1.10以上となる高強度での運動が必要であり(Barady, et al., 2010),対象者への負担が大きく,また脳卒中片麻痺患者では運動麻痺のために運動課題の遂行が困難という問題がある。ガス交換比は筋有酸素能を反映し,健常成人において嫌気性代謝閾値以下の低強度運動中に計測されたガス交換比はPeak VO2と負の相関を示すと報告されている(Ramos-Jimenez, et al., 2008)。しかしながら,脳卒中片麻痺患者においてガス交換比とPeak VO2の関係は十分に検討されていない。そこで本研究の目的は,脳卒中片麻痺患者において低強度での定常負荷運動に得られたガス交換比で全身持久力を推定できるか検証することである。


【方法】

対象は,2014年8月から2015年7月までに当院回復期病棟に入院した初発脳卒中片麻痺患者13名(男性9名,年齢62±11歳,体格指数21.6±2.4 kg/m2,発症後83±33日;平均±標準偏差)であった。下肢運動麻痺は,Brunnstrom stageでIIIが2名,IVが2名,Vが7名,VIが2名であった。採用基準は,認知症や高次脳機能障害がなく,漸増負荷運動で予測最大心拍数の85%以上およびガス交換比が1.10以上に到達可能な者とした。除外基準は,内科的疾患および関節拘縮や疼痛のため運動課題の遂行が困難,および神経疾患の既往がある者とした。

運動課題は,エルゴメータを用いた下肢運動とした。3分間以上の安静座位後,10 Wで3分間の定常負荷運動を行い,続いて負荷強度を1分ごとに10 Wずつ漸増させた。運動中は,10 Wでの至適回転速度を維持するよう指示した。運動終了基準は,アメリカスポーツ医学会のガイドラインに従った(2013)。ガス交換比は酸素摂取量に対する二酸化炭素排出量の比として算出し,定常負荷運動の終了前30秒の平均値を解析に用いた。Peak VO2は,漸増負荷運動における酸素摂取量の最大値として測定した。

統計解析では,定常負荷運動におけるガス交換比とPeak VO2の関係を検討するために,Pearson積率相関係数を用いた。有意水準は5%とした。


【結果】

ガス交換比は0.90±0.07であった。Peak VO2は,15.9±3.0 mL/kg/minであった。ガス交換比とPeak VO2は,有意な負の相関を示した(r=-0.54,p=0.04)。


【結論】

脳卒中片麻痺患者において,定常負荷運動中のガス交換比はPeak VO2と関連することが示された。本研究の知見は,ガス交換比が1.10より低い運動強度で脳卒中片麻痺患者の全身持久力を推定できる可能性を示した点で,臨床上意義がある。今後の研究では,本研究の知見が脳卒中片麻痺患者の病態理解や治療効果判定に応用できるかを検証したい。