[O-KS-07-4] 健常者に対する直流前庭電気刺激が血圧に与える影響について
Keywords:直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:GVS), 仰臥位, 血圧変動
【はじめに,目的】
直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:GVS)は両側乳様突起から直流電流を通電することで前庭器官を刺激する電気刺激法である。前庭は平衡を司る器官であるが,自律神経とも密接に関与し体位変換時の血圧変動に関わっている。近年,脳卒中後半側空間無視に対してGVSを治療目的に使用することが報告されている。しかし,治療応用による血圧変動についての報告は見られない。そこで本研究では健常成人に対して治療応用を想定して仰臥位でGVSを実施し,血圧に与える影響を調査した。
【方法】
対象は健常成人男性14名(平均年齢20±0.5歳)とした。GVSには直流電流の連続波を用い,刺激強度は皮膚感覚閾値の80%程度として20分間実施した。刺激極性は左乳様突起を陰極とした。測定肢位は仰臥位とし,左中指の指尖血圧を測定した。対象者に,実際に電流を流すGVS条件と電極を貼付するが電流を流さないSham条件の2条件で,それぞれ午前と午後に測定した。測定毎の間隔は24時間以上空け,2条件の順序はランダムに設定した。対象者には,前夜からカフェイン摂取を制限し十分な睡眠を取るように指示した。測定は対象者にGVS用電極を貼付した後に仰臥位にし,5分間経過後より始めた。測定開始5分後にGVSもしくはShamを開始した。指尖血圧データは刺激開始1分前をベースラインとし,開始直後,5分後,10分後,15分後,20分後の時点から10測定分のデータを平均して分析に用いた。同様に心拍数も分析した。統計解析には群と時間の影響について反復測定二元配置分散分析を行った。有意水準はp<0.05とした。
【結果】
収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧について群および時間の単純主効果は認められなかった。またそれぞれの交互作用も認められなかった[収縮期血圧:(F=.459,p=.959;拡張期血圧:(F=.459,p=.958);平均血圧:(F=.401,p=.978)]。心拍数については群の単純主効果は認められなかった(p=.851)が,時間の単純主効果(p<0.05)が認められた。交互作用は認められなかった(F=.755,p=.726)。
【結論】
先行研究でGVSにより血圧が上昇することが報告されていることから,GVSは血圧を上昇させる危険性を潜在的に有しており,治療応用する際のリスクとなり得ることが考えられる。しかし,本研究では有意な血圧変動は認められなかった。これは,先行研究に比べ刺激強度が弱かったためであると考えられる。また,心拍数は全ての条件で時間経過とともに心拍数が減少したが,GVSによる変動は認められなかった。刺激強度を弱めることで治療効果が減弱することが考えられるが,GVSを治療応用している先行研究では,感覚閾値下の刺激強度でも大脳皮質を賦活することが可能であり,効果が期待できるとしている。今回の研究より,治療に用いられる弱い刺激強度でのGVSを仰臥位で用いることは血圧変動を引き起こさず安全に治療応用できることが示唆された。
直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:GVS)は両側乳様突起から直流電流を通電することで前庭器官を刺激する電気刺激法である。前庭は平衡を司る器官であるが,自律神経とも密接に関与し体位変換時の血圧変動に関わっている。近年,脳卒中後半側空間無視に対してGVSを治療目的に使用することが報告されている。しかし,治療応用による血圧変動についての報告は見られない。そこで本研究では健常成人に対して治療応用を想定して仰臥位でGVSを実施し,血圧に与える影響を調査した。
【方法】
対象は健常成人男性14名(平均年齢20±0.5歳)とした。GVSには直流電流の連続波を用い,刺激強度は皮膚感覚閾値の80%程度として20分間実施した。刺激極性は左乳様突起を陰極とした。測定肢位は仰臥位とし,左中指の指尖血圧を測定した。対象者に,実際に電流を流すGVS条件と電極を貼付するが電流を流さないSham条件の2条件で,それぞれ午前と午後に測定した。測定毎の間隔は24時間以上空け,2条件の順序はランダムに設定した。対象者には,前夜からカフェイン摂取を制限し十分な睡眠を取るように指示した。測定は対象者にGVS用電極を貼付した後に仰臥位にし,5分間経過後より始めた。測定開始5分後にGVSもしくはShamを開始した。指尖血圧データは刺激開始1分前をベースラインとし,開始直後,5分後,10分後,15分後,20分後の時点から10測定分のデータを平均して分析に用いた。同様に心拍数も分析した。統計解析には群と時間の影響について反復測定二元配置分散分析を行った。有意水準はp<0.05とした。
【結果】
収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧について群および時間の単純主効果は認められなかった。またそれぞれの交互作用も認められなかった[収縮期血圧:(F=.459,p=.959;拡張期血圧:(F=.459,p=.958);平均血圧:(F=.401,p=.978)]。心拍数については群の単純主効果は認められなかった(p=.851)が,時間の単純主効果(p<0.05)が認められた。交互作用は認められなかった(F=.755,p=.726)。
【結論】
先行研究でGVSにより血圧が上昇することが報告されていることから,GVSは血圧を上昇させる危険性を潜在的に有しており,治療応用する際のリスクとなり得ることが考えられる。しかし,本研究では有意な血圧変動は認められなかった。これは,先行研究に比べ刺激強度が弱かったためであると考えられる。また,心拍数は全ての条件で時間経過とともに心拍数が減少したが,GVSによる変動は認められなかった。刺激強度を弱めることで治療効果が減弱することが考えられるが,GVSを治療応用している先行研究では,感覚閾値下の刺激強度でも大脳皮質を賦活することが可能であり,効果が期待できるとしている。今回の研究より,治療に用いられる弱い刺激強度でのGVSを仰臥位で用いることは血圧変動を引き起こさず安全に治療応用できることが示唆された。