[O-KS-07-6] 運動が頸髄,脊髄損傷者の血中BDNF動態に及ぼす影響
Keywords:運動, 神経栄養因子, 脊髄損傷
【はじめに,目的】
Brain-derived neurotrophic factor(BDNF)は,神経細胞の発生や成長,修復に働き,さらに学習や記憶,情動,摂食,糖代謝などにおいても重要な働きをする神経栄養因子の1つである。これまでにアルツハイマー病やうつ病を含む神経変性疾患やII型糖尿病,肥満症患者において,脳内と血中のBDNF水準が低下する事が分かっている。また健常者では,運動時に脳内,血中のBDNFが増加する事が報告されており,BDNFの増加が認知症やうつ病,さらには肥満や糖尿病の発症予防や病態改善に貢献する可能性が示唆されている。しかし,脊髄損傷者での検討はなく,運動によるBDNF動態は不明である。
今回,脊髄損傷者を対象に車いすハーフマラソン前後での血中BDNFを測定し,運動による動態を検討した。さらに頸髄損傷者(CSCI),胸腰髄損傷者(SCI)での比較を行い,損傷高位による影響も検討した。
【方法】
大分国際車いすマラソン大会ハーフマラソン部門で完走したASIA分類AのCSCI 9名とSCI 8名を対象とした。
測定項目は血清BDNF,およびBDNF動態に影響するといわれる血小板,コルチゾールとし,レース前日,レース直後(安静時),レース1時間後に採血を行った。BDNFはELISA法,コルチゾールはECLIA法,血小板は全自動血球計数器で測定を行った。解析はOne-way ANOVAを行い,post hocはTukey-Kramerを使用した。さらに両群間の比較はMann-Whitney U testを行った。
【結果】
BDNFは両群ともレース直後に安静時よりも有意に上昇し,レース1時間後には安静時のレベルへと改善した。両群間の比較ではレース直後とレース1時間後においてSCIの方がCSCIよりも有意に高値であった。また血小板数は両群ともに有意な変化を認めなかった。コルチゾールはSCIでのみレース直後に有意な上昇を認め,レース1時間後では有意な低下は認めたが,安静時までの改善には至らなかった。
【結論】
CSCI,SCIともに健常者と同様,運動によってBDNFが上昇する事が判明した。またレース直後のBDNFレベルに,両群間での有意差があったことから損傷高位による影響を受ける可能性が示唆された。運動は脳内の様々な領域に加え,骨格筋からもBDNFを発現することが確認されている。したがって両群とも同コースを走行するために仕事量は同様であるが,動員筋量はSCIの方で多くなるためBDNF増加量がSCIで高くなった可能性がある。
また今回,血小板数に変化がないため,BDNFの増加は血小板からの放出由来ではないと考えられる。さらにコルチゾールはBDNF発現を抑制すると報告されているが,SCIのコルチゾール,BDNFはともに上昇していたことから運動時のBDNF上昇は,血小板数やコルチゾールの影響は受けていない可能性が示唆された。今回,脊髄損傷者でも運動によってBDNFが上昇した。すなわち健常者と同様,運動によって脳障害や認知症,代謝性疾患への改善効果が期待できる。
Brain-derived neurotrophic factor(BDNF)は,神経細胞の発生や成長,修復に働き,さらに学習や記憶,情動,摂食,糖代謝などにおいても重要な働きをする神経栄養因子の1つである。これまでにアルツハイマー病やうつ病を含む神経変性疾患やII型糖尿病,肥満症患者において,脳内と血中のBDNF水準が低下する事が分かっている。また健常者では,運動時に脳内,血中のBDNFが増加する事が報告されており,BDNFの増加が認知症やうつ病,さらには肥満や糖尿病の発症予防や病態改善に貢献する可能性が示唆されている。しかし,脊髄損傷者での検討はなく,運動によるBDNF動態は不明である。
今回,脊髄損傷者を対象に車いすハーフマラソン前後での血中BDNFを測定し,運動による動態を検討した。さらに頸髄損傷者(CSCI),胸腰髄損傷者(SCI)での比較を行い,損傷高位による影響も検討した。
【方法】
大分国際車いすマラソン大会ハーフマラソン部門で完走したASIA分類AのCSCI 9名とSCI 8名を対象とした。
測定項目は血清BDNF,およびBDNF動態に影響するといわれる血小板,コルチゾールとし,レース前日,レース直後(安静時),レース1時間後に採血を行った。BDNFはELISA法,コルチゾールはECLIA法,血小板は全自動血球計数器で測定を行った。解析はOne-way ANOVAを行い,post hocはTukey-Kramerを使用した。さらに両群間の比較はMann-Whitney U testを行った。
【結果】
BDNFは両群ともレース直後に安静時よりも有意に上昇し,レース1時間後には安静時のレベルへと改善した。両群間の比較ではレース直後とレース1時間後においてSCIの方がCSCIよりも有意に高値であった。また血小板数は両群ともに有意な変化を認めなかった。コルチゾールはSCIでのみレース直後に有意な上昇を認め,レース1時間後では有意な低下は認めたが,安静時までの改善には至らなかった。
【結論】
CSCI,SCIともに健常者と同様,運動によってBDNFが上昇する事が判明した。またレース直後のBDNFレベルに,両群間での有意差があったことから損傷高位による影響を受ける可能性が示唆された。運動は脳内の様々な領域に加え,骨格筋からもBDNFを発現することが確認されている。したがって両群とも同コースを走行するために仕事量は同様であるが,動員筋量はSCIの方で多くなるためBDNF増加量がSCIで高くなった可能性がある。
また今回,血小板数に変化がないため,BDNFの増加は血小板からの放出由来ではないと考えられる。さらにコルチゾールはBDNF発現を抑制すると報告されているが,SCIのコルチゾール,BDNFはともに上昇していたことから運動時のBDNF上昇は,血小板数やコルチゾールの影響は受けていない可能性が示唆された。今回,脊髄損傷者でも運動によってBDNFが上昇した。すなわち健常者と同様,運動によって脳障害や認知症,代謝性疾患への改善効果が期待できる。