[O-KS-08-1] 脊髄損傷者における皮膚表面の局所冷却刺激に対する皮膚血流応答
Keywords:寒冷時皮膚血管拡張反応, 交感神経, 軸索反射
【はじめに,目的】
ヒトの皮膚への局所冷却刺激(LC)は,冷却初期に皮膚血管収縮反応が起こり皮膚血流量は減少する。血管収縮反応の後,10℃以下のLCが続くと収縮から反転して,寒冷時皮膚血管拡張反応(CIVD)が起こり皮膚血流量は増加する。この反応はヒトにおける凍傷の予防機構として知られているが,その発現機序に関しては不明である。また発現部位は無毛部である手指,手掌,足底などの動静脈吻合部で認められているが,有毛部では検証されていない。本研究の目的は,ヒトの有毛部である大腿部領域に対しLCを行い,健常者(AB)の健常部,局所麻酔部位と脊髄損傷高位以下の感覚神経や末梢神経の入力が障害されている頚髄・脊髄損傷者(SCI)においてCIVDが発現するか検証すること。
【方法】
対象はABの男性14名(平均年齢35.6±1.6歳)とASIA分類でAのSCI7名(男性6名・女性1名,平均年齢46.1±4.8歳)で,糖尿病と心臓疾患,高血圧の既往の方を除外した。LCの方法は,Peltier素子の冷却装置を有毛部の皮膚表面に当て実施した。LC部位はABの右大腿部(非麻酔部),左大腿部にリドカインとプロピトカイン成分が含有した局所麻酔薬塗布部(麻酔部)の2箇所で,冷却順序をランダムで実施した。SCIは,麻痺域である大腿部に対してLCを実施した。プロトコルは,始めPeltier素子を33℃に設定し,安静臥位10分後,15℃に下げ15分,ついで8℃で15分の局所冷却を行った。温度は0.045℃/secの速度で下げ,ABとSCIとも同様に実施した。測定項目は,LC部位の皮膚血流量,舌下温,局所皮膚温,脈拍,平均血圧とした。解析は,舌下温,局所皮膚温,脈拍,平均血圧は各段階の最終5分間の平均値を算出した。皮膚血流量は,安静最終5分間の平均値から1分毎の変化率を算出した。CIVDの解析については,8℃冷却開始から拡張までの時間をOnset timeとし,拡張開始時点から,回帰曲線を用いて最大振幅,時定数を算出した。統計処理は多重比較検定でTukey-kramer法を使用し,各測定項目において帰無仮説棄却のための水準を5%未満とした。
【結果】
舌下温,局所皮膚温,脈拍,平均血圧は各段階で有意差を認めなかった。皮膚血流量は,15℃において安静から非麻酔部では約50%有意に低下し,麻酔部とSCIでは約35%有意に低下し,CIVDを認めなかった。8℃において非麻酔部では2分目以降に,麻酔部とSCIでは1分目以降からCIVDが生じた。CIVDの解析については,Onset timeと最大振幅に有意差はなく,時定数において麻酔部とSCIが非麻酔部より有意に速い結果となった。
【結論】
ヒトの有毛部へのLCは,15℃でなく8℃でABとSCIともにCIVDを認め,SCIにおいても凍傷に対する防御機能が残存することを証明した。この反応の機序は,局所麻酔薬による末梢神経活動の遮断やSCIの麻痺域においてCIVDを認めたことから,神経系の影響より皮膚血管内皮機能が発現に関与する可能性がある。
ヒトの皮膚への局所冷却刺激(LC)は,冷却初期に皮膚血管収縮反応が起こり皮膚血流量は減少する。血管収縮反応の後,10℃以下のLCが続くと収縮から反転して,寒冷時皮膚血管拡張反応(CIVD)が起こり皮膚血流量は増加する。この反応はヒトにおける凍傷の予防機構として知られているが,その発現機序に関しては不明である。また発現部位は無毛部である手指,手掌,足底などの動静脈吻合部で認められているが,有毛部では検証されていない。本研究の目的は,ヒトの有毛部である大腿部領域に対しLCを行い,健常者(AB)の健常部,局所麻酔部位と脊髄損傷高位以下の感覚神経や末梢神経の入力が障害されている頚髄・脊髄損傷者(SCI)においてCIVDが発現するか検証すること。
【方法】
対象はABの男性14名(平均年齢35.6±1.6歳)とASIA分類でAのSCI7名(男性6名・女性1名,平均年齢46.1±4.8歳)で,糖尿病と心臓疾患,高血圧の既往の方を除外した。LCの方法は,Peltier素子の冷却装置を有毛部の皮膚表面に当て実施した。LC部位はABの右大腿部(非麻酔部),左大腿部にリドカインとプロピトカイン成分が含有した局所麻酔薬塗布部(麻酔部)の2箇所で,冷却順序をランダムで実施した。SCIは,麻痺域である大腿部に対してLCを実施した。プロトコルは,始めPeltier素子を33℃に設定し,安静臥位10分後,15℃に下げ15分,ついで8℃で15分の局所冷却を行った。温度は0.045℃/secの速度で下げ,ABとSCIとも同様に実施した。測定項目は,LC部位の皮膚血流量,舌下温,局所皮膚温,脈拍,平均血圧とした。解析は,舌下温,局所皮膚温,脈拍,平均血圧は各段階の最終5分間の平均値を算出した。皮膚血流量は,安静最終5分間の平均値から1分毎の変化率を算出した。CIVDの解析については,8℃冷却開始から拡張までの時間をOnset timeとし,拡張開始時点から,回帰曲線を用いて最大振幅,時定数を算出した。統計処理は多重比較検定でTukey-kramer法を使用し,各測定項目において帰無仮説棄却のための水準を5%未満とした。
【結果】
舌下温,局所皮膚温,脈拍,平均血圧は各段階で有意差を認めなかった。皮膚血流量は,15℃において安静から非麻酔部では約50%有意に低下し,麻酔部とSCIでは約35%有意に低下し,CIVDを認めなかった。8℃において非麻酔部では2分目以降に,麻酔部とSCIでは1分目以降からCIVDが生じた。CIVDの解析については,Onset timeと最大振幅に有意差はなく,時定数において麻酔部とSCIが非麻酔部より有意に速い結果となった。
【結論】
ヒトの有毛部へのLCは,15℃でなく8℃でABとSCIともにCIVDを認め,SCIにおいても凍傷に対する防御機能が残存することを証明した。この反応の機序は,局所麻酔薬による末梢神経活動の遮断やSCIの麻痺域においてCIVDを認めたことから,神経系の影響より皮膚血管内皮機能が発現に関与する可能性がある。