[O-KS-08-2] ラット膝関節炎の急性期に対する寒冷療法の効果のメカニズムに関する検討
Keywords:痛み, 寒冷療法, 関節炎
【はじめに,目的】
これまで我々は,ラット膝関節炎の急性期に寒冷療法を施行すると患部の腫脹や痛みのみならず,足底に惹起される二次性痛覚過敏も早期に軽減することを報告してきた。そして,このメカニズムには寒冷療法が患部の炎症軽減に作用し,脊髄後角への侵害刺激入力が減少することで,中枢性感作が抑制されるという生物学的機序が関与していると仮説している。そこで,本研究ではこの仮説を検証する目的で以下の実験を行った。
【方法】
Wistar系雄性ラット42匹を用い,1)3%カラゲニン・カオリン混合液を右膝関節に注射し,関節炎を惹起させる関節炎群(n=14),2)関節炎惹起後,寒冷療法を施行する寒冷群(n=13),3)疑似処置として生理食塩水を右膝関節に注射する対照群(n=15)に振り分けた。寒冷群に対しては,起炎剤注射翌日から7日間,麻酔下で右膝関節を約5℃の冷水に20分間浸漬することで寒冷療法を施行した。そして,実験期間中は右膝関節の腫脹と圧痛閾値ならびに右足底の痛覚閾値を評価し,28日間の実験期間終了後には各群のラットから右膝関節と腰髄を採取した。膝関節は矢状断切片を作製し,マクロファージのマーカーであるCD68に対する免疫組織化学的染色を実施し,滑膜における単位面積あたりのCD68陽性細胞数を計測した。腰髄は第2-3腰髄と第4-5腰髄に分けて凍結横断切片を作製し,カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に対する蛍光免疫染色を実施し,脊髄後角における発光強度を計測した。
【結果】
膝関節の腫脹は,関節炎群と寒冷群ともに28日目まで対照群より有意に高値を示したが,両群の推移を比較すると寒冷群が有意に低値を示した。次に,膝関節の圧痛閾値および足底の痛覚閾値は,関節炎群は対照群と比較して28日目まで有意に低下していたが,寒冷群は関節炎群と比較して3日目より有意に上昇し,28日目では対照群と有意差を認めなかった。単位面積あたりのCD68陽性細胞数は,関節炎群と寒冷群は対照群と比較して有意に高値を示したが,この2群を比較すると寒冷群が有意に低値を示した。また,脊髄後角におけるCGRP発光強度は,第2-3腰髄,第4-5腰髄のいずれにおいても関節炎群は対照群と比較して有意に高値を示したが,寒冷群と対照群の間に有意差を認めなかった。
【結論】
今回の結果から,関節炎の急性期に寒冷療法を施行すると組織学的にも炎症の軽減が示唆され,これが腫脹と痛みの軽減につながったと考えられる。また,関節炎群に比べ寒冷群は脊髄後角におけるCGRPの発現が低下していた。これは中枢性感作の抑制を示唆しており,これにより足底の二次性痛覚過敏が早期に軽減したと考えられる。以上から,関節炎の急性期に施行する寒冷療法の効果のメカニズムには,患部の炎症軽減によって脊髄後角への侵害刺激入力が減少し,その結果,中枢性感作が抑制されるといった生物学的機序が関与していると推察される。
これまで我々は,ラット膝関節炎の急性期に寒冷療法を施行すると患部の腫脹や痛みのみならず,足底に惹起される二次性痛覚過敏も早期に軽減することを報告してきた。そして,このメカニズムには寒冷療法が患部の炎症軽減に作用し,脊髄後角への侵害刺激入力が減少することで,中枢性感作が抑制されるという生物学的機序が関与していると仮説している。そこで,本研究ではこの仮説を検証する目的で以下の実験を行った。
【方法】
Wistar系雄性ラット42匹を用い,1)3%カラゲニン・カオリン混合液を右膝関節に注射し,関節炎を惹起させる関節炎群(n=14),2)関節炎惹起後,寒冷療法を施行する寒冷群(n=13),3)疑似処置として生理食塩水を右膝関節に注射する対照群(n=15)に振り分けた。寒冷群に対しては,起炎剤注射翌日から7日間,麻酔下で右膝関節を約5℃の冷水に20分間浸漬することで寒冷療法を施行した。そして,実験期間中は右膝関節の腫脹と圧痛閾値ならびに右足底の痛覚閾値を評価し,28日間の実験期間終了後には各群のラットから右膝関節と腰髄を採取した。膝関節は矢状断切片を作製し,マクロファージのマーカーであるCD68に対する免疫組織化学的染色を実施し,滑膜における単位面積あたりのCD68陽性細胞数を計測した。腰髄は第2-3腰髄と第4-5腰髄に分けて凍結横断切片を作製し,カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に対する蛍光免疫染色を実施し,脊髄後角における発光強度を計測した。
【結果】
膝関節の腫脹は,関節炎群と寒冷群ともに28日目まで対照群より有意に高値を示したが,両群の推移を比較すると寒冷群が有意に低値を示した。次に,膝関節の圧痛閾値および足底の痛覚閾値は,関節炎群は対照群と比較して28日目まで有意に低下していたが,寒冷群は関節炎群と比較して3日目より有意に上昇し,28日目では対照群と有意差を認めなかった。単位面積あたりのCD68陽性細胞数は,関節炎群と寒冷群は対照群と比較して有意に高値を示したが,この2群を比較すると寒冷群が有意に低値を示した。また,脊髄後角におけるCGRP発光強度は,第2-3腰髄,第4-5腰髄のいずれにおいても関節炎群は対照群と比較して有意に高値を示したが,寒冷群と対照群の間に有意差を認めなかった。
【結論】
今回の結果から,関節炎の急性期に寒冷療法を施行すると組織学的にも炎症の軽減が示唆され,これが腫脹と痛みの軽減につながったと考えられる。また,関節炎群に比べ寒冷群は脊髄後角におけるCGRPの発現が低下していた。これは中枢性感作の抑制を示唆しており,これにより足底の二次性痛覚過敏が早期に軽減したと考えられる。以上から,関節炎の急性期に施行する寒冷療法の効果のメカニズムには,患部の炎症軽減によって脊髄後角への侵害刺激入力が減少し,その結果,中枢性感作が抑制されるといった生物学的機序が関与していると推察される。