[O-KS-08-3] 不動ならびにその過程で実施する持続的他動運動が患部の炎症や二次性痛覚過敏におよぼす影響
ラット膝関節炎モデルを用いた実験的研究
Keywords:痛み, 関節炎, 持続的他動運動
【はじめに,目的】
四肢の不動が慢性痛発生の危険因子であることは周知の事実となっており,外傷直後や運動器外科術後などの急性期であっても患部の安静は極力控え,運動を促すような理学療法の治療戦略が必要となる。ただ,実際には痛みなどの影響により運動が困難なことが多い。その代替方法の一つとして持続的他動運動(CPM)があるが,痛みに対する効果は十分に検討されていない。そこで,本研究ではラット膝関節炎モデルに対する患肢の不動とその過程で実施するCPMが患部の炎症や二次性痛覚過敏におよぼす影響について検討した。
【方法】
8週齢のWistar系雄性ラットの右膝関節腔内に3%カオリン・カラゲニン混合液を注射することで関節炎を惹起した。これらのラットを1)8週間通常飼育する対照群(n=8),2)右後肢をギプス包帯で8週間不動化する不動群(n=9),3)不動の過程でCPMを実施するCPM群(n=8)に振り分けた。CPM群に対しては,起炎剤投与後2日目から麻酔下で,機器を用いた膝関節の屈曲伸展運動を60分間(週6日)実施した。そして,実験期間中は膝関節の腫脹と圧痛閾値ならびに足底の痛覚閾値を評価した。また,実験期間終了後には,第2-3および4-5腰髄組織を用いてカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に対する蛍光免疫染色を実施し,脊髄後角における染色強度を解析した。
【結果】
膝関節の腫脹は,3群ともに起炎剤投与後1日目に顕著な増加を認め,その後は減少し,その推移は3群間で有意差を認めなかった。次に,膝関節の圧痛閾値は,3群とも起炎剤投与後1日目に顕著な低下を認め,対照群は起炎剤投与後2週目には投与前と同程度まで回復したが,不動群は対照群と比べて起炎剤投与後2週目以降,有意差に低下していた。一方,CPM群は起炎剤投与後3週目までは対照群と同様の回復を示し,不動群と比較すると起炎剤投与後5週目まで有意差を認めた。足底の痛覚閾値は,3群とも起炎剤投与後1日目に顕著な低下を認め,対照群は起炎剤投与後3週目以降,投与前と同程度まで回復したが,不動群は回復が遅延し,対照群と比較すると起炎剤投与後2週目以降,有意差が認められた。一方,CPM群は起炎剤投与後6週目までは対照群と同様の回復を示し,不動群と比較すると起炎剤投与後8週目まで有意差を認めた。そして,脊髄後角におけるCGRPの染色強度を比較すると,第4-5腰髄の脊髄後角浅層では,不動群は対照群より有意に高値を示したのに対し,CPM群は対照群と有意差を認めなかった。
【結論】
今回の結果から,関節炎発症直後から患部を不動状態に曝すと慢性痛に発展する可能性が高いといえる。一方,関節炎発症後から患部が不動に曝されても,その過程でCPMを実施することで慢性痛の発生を予防できる可能性が示唆され,そのメカニズムには脊髄後角における中枢性感作の抑制が関与していると推察された。
四肢の不動が慢性痛発生の危険因子であることは周知の事実となっており,外傷直後や運動器外科術後などの急性期であっても患部の安静は極力控え,運動を促すような理学療法の治療戦略が必要となる。ただ,実際には痛みなどの影響により運動が困難なことが多い。その代替方法の一つとして持続的他動運動(CPM)があるが,痛みに対する効果は十分に検討されていない。そこで,本研究ではラット膝関節炎モデルに対する患肢の不動とその過程で実施するCPMが患部の炎症や二次性痛覚過敏におよぼす影響について検討した。
【方法】
8週齢のWistar系雄性ラットの右膝関節腔内に3%カオリン・カラゲニン混合液を注射することで関節炎を惹起した。これらのラットを1)8週間通常飼育する対照群(n=8),2)右後肢をギプス包帯で8週間不動化する不動群(n=9),3)不動の過程でCPMを実施するCPM群(n=8)に振り分けた。CPM群に対しては,起炎剤投与後2日目から麻酔下で,機器を用いた膝関節の屈曲伸展運動を60分間(週6日)実施した。そして,実験期間中は膝関節の腫脹と圧痛閾値ならびに足底の痛覚閾値を評価した。また,実験期間終了後には,第2-3および4-5腰髄組織を用いてカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に対する蛍光免疫染色を実施し,脊髄後角における染色強度を解析した。
【結果】
膝関節の腫脹は,3群ともに起炎剤投与後1日目に顕著な増加を認め,その後は減少し,その推移は3群間で有意差を認めなかった。次に,膝関節の圧痛閾値は,3群とも起炎剤投与後1日目に顕著な低下を認め,対照群は起炎剤投与後2週目には投与前と同程度まで回復したが,不動群は対照群と比べて起炎剤投与後2週目以降,有意差に低下していた。一方,CPM群は起炎剤投与後3週目までは対照群と同様の回復を示し,不動群と比較すると起炎剤投与後5週目まで有意差を認めた。足底の痛覚閾値は,3群とも起炎剤投与後1日目に顕著な低下を認め,対照群は起炎剤投与後3週目以降,投与前と同程度まで回復したが,不動群は回復が遅延し,対照群と比較すると起炎剤投与後2週目以降,有意差が認められた。一方,CPM群は起炎剤投与後6週目までは対照群と同様の回復を示し,不動群と比較すると起炎剤投与後8週目まで有意差を認めた。そして,脊髄後角におけるCGRPの染色強度を比較すると,第4-5腰髄の脊髄後角浅層では,不動群は対照群より有意に高値を示したのに対し,CPM群は対照群と有意差を認めなかった。
【結論】
今回の結果から,関節炎発症直後から患部を不動状態に曝すと慢性痛に発展する可能性が高いといえる。一方,関節炎発症後から患部が不動に曝されても,その過程でCPMを実施することで慢性痛の発生を予防できる可能性が示唆され,そのメカニズムには脊髄後角における中枢性感作の抑制が関与していると推察された。