第52回日本理学療法学術大会

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » 口述発表

[O-KS-11] 口述演題(基礎)11

2017年5月13日(土) 10:50 〜 11:50 A4会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室301)

座長:坂本 年将(神戸学院大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[O-KS-11-1] 重症頭部外傷後の遷延性意識障害例の長期的白質変化と長期的意識障害改善度との関連

阿部 浩明1, 長嶺 義秀1, 藤原 悟2 (1.一般財団法人広南会広南病院東北療護センター, 2.一般財団法人広南会広南病院脳神経外科)

キーワード:拡散テンソル画像, 頭部外傷, 遷延性意識障害

【目的】

重症頭部外傷後の遷延性意識障害(PVS)の予後は一般的に不良であるが,一部では長期間の経過を経て意識障害の重症度に改善がみられる症例が存在する。PVS例の理学療法では,治療介入による反応を捉え難く,長期介入によってPVSに改善が得れらるか否かを把握することは極めて難しい。交通外傷後のPVS例の治療を専門的かつ長期的に行う当センターでは各症例の長期的予後が不明なまま日々の介入を続けざるをえない実情がある。頭部外傷によるPVS例の多くはびまん性軸索損傷(DAI)を伴い,近年,このDAIの程度を拡散テンソル画像(DTI)によって把握可能となってきた。本研究の目的はDTIを用いてPVS例の白質変化を検討し,DTIの各種パラメーターと長期的予後との関係性を把握することである。

【方法】

対象は2009年2月から2012年5月までに当院に入院した交通事故関連脳損傷後にPVSを呈した24名のうち,1年以上経過観察がなされ,入院初期およびその1年後に3T MRIによるDTI撮像がなされた者で,かつ著しい脳の変形のない7例である。全脳の白質を対象とした解析法であるtract-based spatial statistics(TBSS)の手法を用いて入院時と1年後の白質のFractional anisotoropy(FA)値を比較した。解析の対象はTBSSの過程で作成した全脳白質スケルトンの平均FA値,FA値0.5以上のvoxel数,TBSSにて有意な変化が確認された領域の神経線維束のFA平均値とした。これらのDTIパラメーターと1年後のPVS重症度の改善度との関係を調査した。意識障害の重症度はPVSの評価を目的として開発された広南スコアを用いて評価した。

【結果】

対象者7例の平均年齢は59.7±8.4歳,男性5名,女性2名,広南スコアは53.6±15.6で,受傷から入院までの期間は257.7±98.5日であった。TBSSでは広範な領域に散在して有意なFA減少領域がみられ,FA値低下領域は特に小鉗子に集中した。DTIパラメータのうち全脳白質スケルトンを対象とした平均FA値は初回撮像時0.3738±0.0329,二回目撮像時は0.3462±0.0179,同様に,FA値0.5以上のvoxel数は24718.9±10103.8,18002.4±4394.0,小鉗子が通過する領域のFA値は0.57±0.040,0.53±0.031となりいずれも有意(p<0.05)に減少していた。一方で,広南スコアの改善度とDTIのパラメーターとの相関は第2回撮像時のFA値0.5以上のvoxel数のみ有意な相関(r=0.78,p<0.05)がみられ,1年後の撮像時にFA値0.5以上のvoxel数が多い症例ほどPVSが改善していた。

【結論】

慢性期のPVSでは約1年経過した後にもFA値に変化が生じており,1年後のFA値0.5以上を示す白質領域の多さがPVSの改善度と相関した。これらのパラメーターの観察は通常の理学療法に対する反応に乏しいPVS例への治療介入効果を計る一つの指標となり得るのかもしれない。