[O-KS-11-2] 脳梗塞後痙縮発症マウスの脳幹網様体におけるシナプスの恒常的可塑性変化
Keywords:スケーリング, グルタミン酸受容体, シナプス
【はじめに,目的】
痙縮は,中枢神経障害後すぐに出現せず,長期間かけて出現・亢進することから,中枢神経障害後の可塑的変化による影響が示唆される。神経の可塑的変化を起こす機序の一つに恒常的可塑性があり,神経細胞では入力刺激が極端に減少や増加した場合,入力刺激の調節に変化が生じる。恒常的可塑性下ではシナプスにおけるグルタミン酸受容体の数やそのサブユニット構成の変化,また細胞膜と細胞内の受容体輸送による細胞活動の調整(スケーリング)が起こる。私たちは,これまで脳梗塞後痙縮発症マウスを用いて痙縮発症機序として,脊髄反射の中枢とされる脳幹網様体神経核において神経活動の亢進を確認し,その活動亢進の背景に恒常的可塑性があるのではないかと仮説を立てた。そこで本研究は,痙縮マウスを用いて脳幹網様体神経細胞におけるシナプスの可塑的変化をグルタミン酸受容体面積のシナプスおよび細胞内における局在を解析する。
【方法】
脳梗塞を作成し,1週後の脳幹を採取した。免疫染色にて,脳幹網様体における興奮性シナプスマーカーPSD-95と共局在するAMPA型グルタミン酸受容体サブユニットGluR1,およびシナプス外に存在するGluR1の比率を確認した。
【結果】
脳梗塞群で1視野あたりの平均シナプス数が有意に減少した(p<0.01)。シナプスに局在するGluR1面積は有意に増加した(脳梗塞群=0.56 mm^2,sham群=0.47 mm^2,p<0.01)。受容体輸送について,1視野あたりのシナプスに局在するGluR1とシナプス外に局在するGluR1の面積を解析したところ,脳梗塞群ではシナプス外よりもシナプスに局在する面積が有意に多く(シナプス局在=12.6 mm^2,シナプス外=3.7 mm^2,p<0.01),一方sham群では逆の配置となった(シナプス局在=7.0 mm^2,シナプス外=17.3 mm^2,p<0.01)。さらにシナプスにおけるサブユニット構成の変化として,GluR1を持つグルタミン酸受容体の割合が有意に増加した(脳梗塞群=25%,sham群=21%,p<0.01)。
【結論】
本研究結果は,脳梗塞後に脳幹網様体神経細胞において恒常的可塑的変化が生じている可能性を示す。脳梗塞により大脳皮質から脳幹網様体への入力刺激が激減することで恒常的可塑性が生じたと考えられる。今後は,恒常的可塑的変化についてGluR1以外のサブユニットの変化や,受容体輸送に関連するThorase分子(ATPase family AAA domain-containing protein1)などの関与について詳細を解析し,この可塑的変化により,細胞活動の亢進や痙縮の発症が生じているかなどの検討も行いたい。
痙縮は,中枢神経障害後すぐに出現せず,長期間かけて出現・亢進することから,中枢神経障害後の可塑的変化による影響が示唆される。神経の可塑的変化を起こす機序の一つに恒常的可塑性があり,神経細胞では入力刺激が極端に減少や増加した場合,入力刺激の調節に変化が生じる。恒常的可塑性下ではシナプスにおけるグルタミン酸受容体の数やそのサブユニット構成の変化,また細胞膜と細胞内の受容体輸送による細胞活動の調整(スケーリング)が起こる。私たちは,これまで脳梗塞後痙縮発症マウスを用いて痙縮発症機序として,脊髄反射の中枢とされる脳幹網様体神経核において神経活動の亢進を確認し,その活動亢進の背景に恒常的可塑性があるのではないかと仮説を立てた。そこで本研究は,痙縮マウスを用いて脳幹網様体神経細胞におけるシナプスの可塑的変化をグルタミン酸受容体面積のシナプスおよび細胞内における局在を解析する。
【方法】
脳梗塞を作成し,1週後の脳幹を採取した。免疫染色にて,脳幹網様体における興奮性シナプスマーカーPSD-95と共局在するAMPA型グルタミン酸受容体サブユニットGluR1,およびシナプス外に存在するGluR1の比率を確認した。
【結果】
脳梗塞群で1視野あたりの平均シナプス数が有意に減少した(p<0.01)。シナプスに局在するGluR1面積は有意に増加した(脳梗塞群=0.56 mm^2,sham群=0.47 mm^2,p<0.01)。受容体輸送について,1視野あたりのシナプスに局在するGluR1とシナプス外に局在するGluR1の面積を解析したところ,脳梗塞群ではシナプス外よりもシナプスに局在する面積が有意に多く(シナプス局在=12.6 mm^2,シナプス外=3.7 mm^2,p<0.01),一方sham群では逆の配置となった(シナプス局在=7.0 mm^2,シナプス外=17.3 mm^2,p<0.01)。さらにシナプスにおけるサブユニット構成の変化として,GluR1を持つグルタミン酸受容体の割合が有意に増加した(脳梗塞群=25%,sham群=21%,p<0.01)。
【結論】
本研究結果は,脳梗塞後に脳幹網様体神経細胞において恒常的可塑的変化が生じている可能性を示す。脳梗塞により大脳皮質から脳幹網様体への入力刺激が激減することで恒常的可塑性が生じたと考えられる。今後は,恒常的可塑的変化についてGluR1以外のサブユニットの変化や,受容体輸送に関連するThorase分子(ATPase family AAA domain-containing protein1)などの関与について詳細を解析し,この可塑的変化により,細胞活動の亢進や痙縮の発症が生じているかなどの検討も行いたい。