[O-KS-11-4] ヘッドマウントディスプレイを用いた視覚誘導性自己運動錯覚によって生じる無知覚運動は身体運動の映像と同調するのか?
Keywords:視覚誘導性自己運動錯覚, 無知覚運動, 筋電図
【はじめに】
安静状態にある被験者に対して自己身体運動の動画による視覚刺激を付与することで,あたかも身体運動が生じているような心理的状況になることを,本研究では視覚誘導性自己運動錯覚(kinesthetic illusion induced by visual stimulation:KiNvis)と呼ぶ。これまでに我々はKiNvisの生理学的な背景として,KiNvis中には下頭頂小葉を含めた脳神経回路網が賦活することや,皮質脊髄路興奮性が増大することなどを報告した。そのような研究を通して,KiNvis中に被験者が無意識下で筋収縮を発現するような状況をしばしば経験している(無知覚運動)。これはKiNvisが運動出力系に強く影響していることを示唆しており,その生理学的影響を解明することは臨床的にも意義深いと考えた。そこで本研究ではまず,KiNvisによって生じる無知覚運動が観察している身体運動の映像と同調して発現するのかを検証することで,無知覚運動が身体映像を観察することに起因する現象なのかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健康な成人18名とした。視覚刺激には自身の右手関節掌背屈運動の動画を用い,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)に提示した。被験者は安楽な椅子座位で,1日につき静止画5分を1試技と動画5分を4試技の合計25分間,映像を観察させるトレーニングを5日間反復した。観察させる動画は掌屈3秒,背屈3秒(1周期6秒)を繰り返す動画を用いた。トレーニング中に橈側手根屈筋(FCR)と橈側手根伸筋(ECR)から表面筋電図を記録した。評価指標は各筋の筋電図から算出した5分間の二乗平均平方根(Root mean square:RMS)および,動画との同調性とした。RMS値は,FCRとECRのRMS値を平均し,各トレーニング試技の代表値とした。動画との同調性は,提示した動画の周期とRMS値との同調率を各筋で算出し,各トレーニング試技において25%を超えた時間の割合を算出した。この割合の2筋の和を本研究における同調性の指標とした。さらに,1日目にトレーニング開始時と5日目のトレーニング終了時において,自己身体所有感の有無と運動錯覚感を7リッカートスケールにて評価した。統計学的解析として測定日およびトレーニング試技を要因とした一元配置分散分析を行なった(p<0.05)。
【結果】
動画内の身体に自己身体所有感が生じた被験者数は,トレーニング前で56%,トレーニング後で78%であった。これに対し,運動錯覚感はトレーニング前で50%,トレーニング後は56%であり,反復トレーニングにより変化しなかった。RMS値は測定日および各トレーニング試技に有意な主効果があり,1日目と比較して5日目で減少した。一方,同調性は静止画と比較してKiNvis中で有意に増加した。
【結論】
HMDを用いたKiNvisによって生じる無知覚運動は,観察している身体運動の映像と同調して発現していた。このことから無知覚運動は錯覚誘導で提示されている動画の影響により発現するものであることが示唆された。
安静状態にある被験者に対して自己身体運動の動画による視覚刺激を付与することで,あたかも身体運動が生じているような心理的状況になることを,本研究では視覚誘導性自己運動錯覚(kinesthetic illusion induced by visual stimulation:KiNvis)と呼ぶ。これまでに我々はKiNvisの生理学的な背景として,KiNvis中には下頭頂小葉を含めた脳神経回路網が賦活することや,皮質脊髄路興奮性が増大することなどを報告した。そのような研究を通して,KiNvis中に被験者が無意識下で筋収縮を発現するような状況をしばしば経験している(無知覚運動)。これはKiNvisが運動出力系に強く影響していることを示唆しており,その生理学的影響を解明することは臨床的にも意義深いと考えた。そこで本研究ではまず,KiNvisによって生じる無知覚運動が観察している身体運動の映像と同調して発現するのかを検証することで,無知覚運動が身体映像を観察することに起因する現象なのかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健康な成人18名とした。視覚刺激には自身の右手関節掌背屈運動の動画を用い,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)に提示した。被験者は安楽な椅子座位で,1日につき静止画5分を1試技と動画5分を4試技の合計25分間,映像を観察させるトレーニングを5日間反復した。観察させる動画は掌屈3秒,背屈3秒(1周期6秒)を繰り返す動画を用いた。トレーニング中に橈側手根屈筋(FCR)と橈側手根伸筋(ECR)から表面筋電図を記録した。評価指標は各筋の筋電図から算出した5分間の二乗平均平方根(Root mean square:RMS)および,動画との同調性とした。RMS値は,FCRとECRのRMS値を平均し,各トレーニング試技の代表値とした。動画との同調性は,提示した動画の周期とRMS値との同調率を各筋で算出し,各トレーニング試技において25%を超えた時間の割合を算出した。この割合の2筋の和を本研究における同調性の指標とした。さらに,1日目にトレーニング開始時と5日目のトレーニング終了時において,自己身体所有感の有無と運動錯覚感を7リッカートスケールにて評価した。統計学的解析として測定日およびトレーニング試技を要因とした一元配置分散分析を行なった(p<0.05)。
【結果】
動画内の身体に自己身体所有感が生じた被験者数は,トレーニング前で56%,トレーニング後で78%であった。これに対し,運動錯覚感はトレーニング前で50%,トレーニング後は56%であり,反復トレーニングにより変化しなかった。RMS値は測定日および各トレーニング試技に有意な主効果があり,1日目と比較して5日目で減少した。一方,同調性は静止画と比較してKiNvis中で有意に増加した。
【結論】
HMDを用いたKiNvisによって生じる無知覚運動は,観察している身体運動の映像と同調して発現していた。このことから無知覚運動は錯覚誘導で提示されている動画の影響により発現するものであることが示唆された。