[O-KS-11-6] 脊髄損傷後の運動機能回復における側坐核の因果的関与:霊長類側坐核損傷モデルを用いて
Keywords:側坐核, 脊髄損傷, 機能回復
【はじめに,目的】
脳脊髄損傷患者の多くがうつ症状を併発し,機能回復の阻害因子となっている。患者の意欲を引き出すことが運動機能回復を促すといわれているが,その神経機序は明らかではない。意欲の生成には,脳内報酬系の一部である側坐核の関与が指摘されているが,側坐核と運動機能回復との因果関係は不明である。本研究では,脊髄損傷後の運動機能回復への側坐核の因果的関与を明らかとするために,脳イメージング実験と側坐核損傷実験を行った。
【方法】
機能回復に対する側坐核の貢献度を明らかにするために,示指と親指を用いた精密把握動作を訓練したマカクサル9頭に対して外側皮質脊髄路をC5/6レベルで損傷し,下記の3つの実験を行った。3頭に対し,脊髄損傷前と損傷後の回復過程において,陽電子断層撮影法(PET)にて,損傷側の手での精密把握と握力把握動作中の局所脳血流量(rCBF)をそれぞれ記録し,脊髄損傷対側の側坐核との間に相関が生じる脳領域を解析した。また,側坐核損傷実験では,別の3頭に対して,脊髄損傷する前に,両側側坐核にイボテン酸を注入し,側坐核を損傷した(側坐核損傷群)。さらに別の3頭には両側側坐核に生理食塩水を注入し偽損傷した(コントロール群)。
【結果】
PET実験の結果,精密把握課題においては,脊髄損傷後の回復過程で,脊髄損傷対側の側坐核と一次運動野のrCBFの間に,脊髄損傷前には観られなかった正の相関(p<0.001)が認められ,機能回復中に機能的神経結合が示唆された。一方で,握力把握においては,脊髄損傷の前後ともに両者の間に相関は認められなかった。側坐核損傷実験の結果,コントロール群では脊髄損傷後,精密把握動作は約1か月で回復した。側坐核損傷群では,側坐核損傷のみでは精密把握動作は障害されなかったが,脊髄損傷後の精密把握動作はリハビリテーションによっても回復を認めなかった。一方で,握力把握動作は側坐核損傷群においても回復した。
【結論】
本研究では脊髄損傷後の精密把握動作の回復に,側坐核が因果的に関与することを明らかとした。PET実験と側坐核損傷実験の結果から,側坐核損傷群では,側坐核と一次運動野間の機能的神経結合が発生しないために精密把握動作の回復に至らなかったと考えられた。一方で,側坐核損傷群でも握力把握が回復したのは,握力把握の回復には側坐核と一次運動野間の機能的神経結合が必要ないためと考えられた。我々の先行研究で,脊髄損傷後の機能回復初期に側坐核が一次運動野の神経活動を促進し,手の運動を制御している(Sawada, et al., 2015, Science)ことを明らかにしている。本研究での側坐核損傷モデルが,側坐核から一次運動野への活動促進が,難易度の高い精密把握動作の回復を実現するために必要であることを示している。側坐核が脊髄損傷後の機能回復を実現するための脳内神経回路の再組織化に重要な役割を担っているのではないかと示唆される。
脳脊髄損傷患者の多くがうつ症状を併発し,機能回復の阻害因子となっている。患者の意欲を引き出すことが運動機能回復を促すといわれているが,その神経機序は明らかではない。意欲の生成には,脳内報酬系の一部である側坐核の関与が指摘されているが,側坐核と運動機能回復との因果関係は不明である。本研究では,脊髄損傷後の運動機能回復への側坐核の因果的関与を明らかとするために,脳イメージング実験と側坐核損傷実験を行った。
【方法】
機能回復に対する側坐核の貢献度を明らかにするために,示指と親指を用いた精密把握動作を訓練したマカクサル9頭に対して外側皮質脊髄路をC5/6レベルで損傷し,下記の3つの実験を行った。3頭に対し,脊髄損傷前と損傷後の回復過程において,陽電子断層撮影法(PET)にて,損傷側の手での精密把握と握力把握動作中の局所脳血流量(rCBF)をそれぞれ記録し,脊髄損傷対側の側坐核との間に相関が生じる脳領域を解析した。また,側坐核損傷実験では,別の3頭に対して,脊髄損傷する前に,両側側坐核にイボテン酸を注入し,側坐核を損傷した(側坐核損傷群)。さらに別の3頭には両側側坐核に生理食塩水を注入し偽損傷した(コントロール群)。
【結果】
PET実験の結果,精密把握課題においては,脊髄損傷後の回復過程で,脊髄損傷対側の側坐核と一次運動野のrCBFの間に,脊髄損傷前には観られなかった正の相関(p<0.001)が認められ,機能回復中に機能的神経結合が示唆された。一方で,握力把握においては,脊髄損傷の前後ともに両者の間に相関は認められなかった。側坐核損傷実験の結果,コントロール群では脊髄損傷後,精密把握動作は約1か月で回復した。側坐核損傷群では,側坐核損傷のみでは精密把握動作は障害されなかったが,脊髄損傷後の精密把握動作はリハビリテーションによっても回復を認めなかった。一方で,握力把握動作は側坐核損傷群においても回復した。
【結論】
本研究では脊髄損傷後の精密把握動作の回復に,側坐核が因果的に関与することを明らかとした。PET実験と側坐核損傷実験の結果から,側坐核損傷群では,側坐核と一次運動野間の機能的神経結合が発生しないために精密把握動作の回復に至らなかったと考えられた。一方で,側坐核損傷群でも握力把握が回復したのは,握力把握の回復には側坐核と一次運動野間の機能的神経結合が必要ないためと考えられた。我々の先行研究で,脊髄損傷後の機能回復初期に側坐核が一次運動野の神経活動を促進し,手の運動を制御している(Sawada, et al., 2015, Science)ことを明らかにしている。本研究での側坐核損傷モデルが,側坐核から一次運動野への活動促進が,難易度の高い精密把握動作の回復を実現するために必要であることを示している。側坐核が脊髄損傷後の機能回復を実現するための脳内神経回路の再組織化に重要な役割を担っているのではないかと示唆される。