[O-KS-12-5] ストレッチングによる即時的な受動的張力の低下が運動時の共同筋間の筋張力制御に及ぼす影響
Keywords:大殿筋, ハムストリングス, 筋張力
【はじめに,目的】
運動時に発揮される筋の張力は,筋が他動的に伸張されて生じる受動的張力と神経的筋活動により筋が随意的に収縮して生じる能動的張力とを合わせた全張力として発揮される。我々は,非荷重位での等尺性収縮時に関節角度の変化に伴う受動的張力の低下に対して代償的に神経的筋活動が増加し,発揮される全張力が外的負荷に合うように調節されることを報告した。しかし,荷重位での姿勢保持時の受動的張力の変化がこうした張力制御に与える影響は明らかではない。そこで,スタティックストレッチング(以下,SS)によってハムストリングスの受動的張力を低下させ,SS前後で荷重位での姿勢保持課題におけるハムストリングスとその共同筋である大殿筋の張力の制御がどう変化するかを検証した。
【方法】
対象は,健常成人男性11名とした(年齢24.7±4.7歳)。課題は,股屈曲60度かつ膝屈曲40度の右片脚荷重位での姿勢保持とした。受動的張力の測定は,背臥位,股屈曲60度かつ膝屈曲40度で,完全に脱力した状態で実施した。SSは,右側ハムストリングスに対して6分間実施した。SS前後で,右側の大腿二頭筋長頭,半腱様筋,大殿筋上部線維,大殿筋下部線維について,受動的張力,片脚荷重位での姿勢保持時の筋張力(全張力)および筋活動を測定した。筋張力の測定には,SuperSonic Imagine社製超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能を用い,各課題中の弾性率を指標として用いた。筋活動の測定には,Noraxon社製表面筋電計を用い,安定した3秒間の平均筋活動量を求め,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動で正規化した。筋張力,筋活動ともに3試行の平均値を解析に用い,ハムストリングスは大腿二頭筋長頭と半腱様筋の値を平均したHamstとして,大殿筋は上部線維と下部線維の値を平均したGmaxとして算出した。統計解析は,HamstとGmaxの受動的張力,全張力,筋活動について,SS前後の値を対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。
【結果】
Hamstでは,受動的張力はSS後に有意に低下した一方で(p<0.01),全張力はSS前後で有意差を認めず,筋活動はSS後に増加する傾向を認めたが有意差はなかった。Gmaxでは,受動的張力および全張力はSS前後で有意差を認めなかったが,筋活動はSS後に有意に増加した(p<0.01)。
【結論】
ハムストリングスの受動的張力を低下させて同じ関節角度で荷重位での姿勢保持課題を行った場合,ハムストリングスの筋活動の増加よりもむしろ,共同筋である大殿筋の筋活動を増加させて運動を維持している可能性が示唆された。
運動時に発揮される筋の張力は,筋が他動的に伸張されて生じる受動的張力と神経的筋活動により筋が随意的に収縮して生じる能動的張力とを合わせた全張力として発揮される。我々は,非荷重位での等尺性収縮時に関節角度の変化に伴う受動的張力の低下に対して代償的に神経的筋活動が増加し,発揮される全張力が外的負荷に合うように調節されることを報告した。しかし,荷重位での姿勢保持時の受動的張力の変化がこうした張力制御に与える影響は明らかではない。そこで,スタティックストレッチング(以下,SS)によってハムストリングスの受動的張力を低下させ,SS前後で荷重位での姿勢保持課題におけるハムストリングスとその共同筋である大殿筋の張力の制御がどう変化するかを検証した。
【方法】
対象は,健常成人男性11名とした(年齢24.7±4.7歳)。課題は,股屈曲60度かつ膝屈曲40度の右片脚荷重位での姿勢保持とした。受動的張力の測定は,背臥位,股屈曲60度かつ膝屈曲40度で,完全に脱力した状態で実施した。SSは,右側ハムストリングスに対して6分間実施した。SS前後で,右側の大腿二頭筋長頭,半腱様筋,大殿筋上部線維,大殿筋下部線維について,受動的張力,片脚荷重位での姿勢保持時の筋張力(全張力)および筋活動を測定した。筋張力の測定には,SuperSonic Imagine社製超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能を用い,各課題中の弾性率を指標として用いた。筋活動の測定には,Noraxon社製表面筋電計を用い,安定した3秒間の平均筋活動量を求め,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動で正規化した。筋張力,筋活動ともに3試行の平均値を解析に用い,ハムストリングスは大腿二頭筋長頭と半腱様筋の値を平均したHamstとして,大殿筋は上部線維と下部線維の値を平均したGmaxとして算出した。統計解析は,HamstとGmaxの受動的張力,全張力,筋活動について,SS前後の値を対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。
【結果】
Hamstでは,受動的張力はSS後に有意に低下した一方で(p<0.01),全張力はSS前後で有意差を認めず,筋活動はSS後に増加する傾向を認めたが有意差はなかった。Gmaxでは,受動的張力および全張力はSS前後で有意差を認めなかったが,筋活動はSS後に有意に増加した(p<0.01)。
【結論】
ハムストリングスの受動的張力を低下させて同じ関節角度で荷重位での姿勢保持課題を行った場合,ハムストリングスの筋活動の増加よりもむしろ,共同筋である大殿筋の筋活動を増加させて運動を維持している可能性が示唆された。