[O-KS-16-2] 長期間でみた筋再生能の頭部筋と下肢筋の比較
Keywords:再生, 筋損傷, 頭頚部
【はじめに,目的】
骨格筋は成熟した身体内においても,高い再生能を持つ。打撲や高強度の運動,外科的手術などにより損傷をうけても,筋の周囲に存在するサテライト細胞とよばれる骨格筋幹細胞により,筋は再生・修復される。我々はこれまでに,頭部筋と下肢筋のサテライト細胞は,両骨格筋間で質的に著しく異なる集団であること,損傷から2週間後において,下肢筋は損傷前と同じ湿重量にまで戻る一方で,頭部筋は有意に小さいままであることを報告した。我々の先の報告を含め,多くの筋再生能を評価する研究において,損傷前と同じ筋サイズに戻るまでの経過を追った報告が多い。しかし,長期間の経過を観察した報告はほとんどない。本研究では,成体内骨格筋の損傷からの再生を長期間観察し,頭部筋と下肢筋の筋再生能を比較することを目的とした。
【方法】
10週齢の雄性マウス(C57BL/6J)を用い,左側の咬筋(MAS)及び前脛骨筋(TA)にカルディオトキシン(CTX)を注射し,対象筋全体にわたって筋損傷を誘発した。筋損傷から1週,2週,40週間後(1w,2w,40w)にそれぞれの筋を摘出し筋湿重量を測定した。2w,40wで回収した筋サンプルの組織横断切片を作成し,HE染色により組織の観察をおこなった。2群間の比較には対応のないT検定を,多群間の比較には一元配置分散分析を用い,有意差を認めた場合には,多重比較検定にTukeyの方法を用いた。有意水準はP<0.05とした。
【結果】
MAS・TAともに,1wの筋湿重量は,非損傷側と比べ有意に小さな値を示した(MAS;78.4±4.1%,TA;82.1±2.0%)。2wの筋湿重量は,MASで有意に小さいままであった一方で,TAでは非損傷側との有意差がみられないレベルにまで戻った(MAS;81.7±10.0%,TA;108.3±6.3%)。この時,中心核を特徴とする再生筋の筋線維横断面積は,TAでは非損傷側ではほとんど見られない5000μm^2を超えるものが多く確認された一方で,MASでは有意に小さい値を示した。筋損傷後40wの筋湿重量は,MASでは非損傷側との差は見られなくなったが,TAでは損傷側の方が非損傷側よりも有意に大きくなった(MAS;101.6±5.3%,TA;145.4±3.0%)。
【結論】
頭部筋は下肢筋と比べ,非損傷側と同じ質重量まで戻るのに長期間を要し,筋再生能力は身体部位によって異なることが明らかとなった。骨格筋を対象とした介入において,過負荷により筋出力が向上することは広く知られている。しかし,頭部筋の筋再生能は低く,過剰な負荷は逆に頭部筋の出力を低下させる恐れがあり,同じ骨格筋であっても,頭部筋の筋機能向上のためのリハビリテーション介入方略は,分けて考える必要があることを示唆する結果が得られた。また,損傷から長期間たったTAの筋湿重量は非損側よりも大きくなったことから,生物の成体内でみられる組織の再生とは,必ずしも元の組織と同じものを生みだす過程ではないことを示唆する結果が得られた。
骨格筋は成熟した身体内においても,高い再生能を持つ。打撲や高強度の運動,外科的手術などにより損傷をうけても,筋の周囲に存在するサテライト細胞とよばれる骨格筋幹細胞により,筋は再生・修復される。我々はこれまでに,頭部筋と下肢筋のサテライト細胞は,両骨格筋間で質的に著しく異なる集団であること,損傷から2週間後において,下肢筋は損傷前と同じ湿重量にまで戻る一方で,頭部筋は有意に小さいままであることを報告した。我々の先の報告を含め,多くの筋再生能を評価する研究において,損傷前と同じ筋サイズに戻るまでの経過を追った報告が多い。しかし,長期間の経過を観察した報告はほとんどない。本研究では,成体内骨格筋の損傷からの再生を長期間観察し,頭部筋と下肢筋の筋再生能を比較することを目的とした。
【方法】
10週齢の雄性マウス(C57BL/6J)を用い,左側の咬筋(MAS)及び前脛骨筋(TA)にカルディオトキシン(CTX)を注射し,対象筋全体にわたって筋損傷を誘発した。筋損傷から1週,2週,40週間後(1w,2w,40w)にそれぞれの筋を摘出し筋湿重量を測定した。2w,40wで回収した筋サンプルの組織横断切片を作成し,HE染色により組織の観察をおこなった。2群間の比較には対応のないT検定を,多群間の比較には一元配置分散分析を用い,有意差を認めた場合には,多重比較検定にTukeyの方法を用いた。有意水準はP<0.05とした。
【結果】
MAS・TAともに,1wの筋湿重量は,非損傷側と比べ有意に小さな値を示した(MAS;78.4±4.1%,TA;82.1±2.0%)。2wの筋湿重量は,MASで有意に小さいままであった一方で,TAでは非損傷側との有意差がみられないレベルにまで戻った(MAS;81.7±10.0%,TA;108.3±6.3%)。この時,中心核を特徴とする再生筋の筋線維横断面積は,TAでは非損傷側ではほとんど見られない5000μm^2を超えるものが多く確認された一方で,MASでは有意に小さい値を示した。筋損傷後40wの筋湿重量は,MASでは非損傷側との差は見られなくなったが,TAでは損傷側の方が非損傷側よりも有意に大きくなった(MAS;101.6±5.3%,TA;145.4±3.0%)。
【結論】
頭部筋は下肢筋と比べ,非損傷側と同じ質重量まで戻るのに長期間を要し,筋再生能力は身体部位によって異なることが明らかとなった。骨格筋を対象とした介入において,過負荷により筋出力が向上することは広く知られている。しかし,頭部筋の筋再生能は低く,過剰な負荷は逆に頭部筋の出力を低下させる恐れがあり,同じ骨格筋であっても,頭部筋の筋機能向上のためのリハビリテーション介入方略は,分けて考える必要があることを示唆する結果が得られた。また,損傷から長期間たったTAの筋湿重量は非損側よりも大きくなったことから,生物の成体内でみられる組織の再生とは,必ずしも元の組織と同じものを生みだす過程ではないことを示唆する結果が得られた。