第52回日本理学療法学術大会

講演情報

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » 口述発表

[O-KS-17] 口述演題(基礎)17

2017年5月14日(日) 11:40 〜 12:40 A5会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室302)

座長:縣 信秀(常葉大学保健医療学部)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[O-KS-17-4] 乳酸刺激によるErk1/2の活性化が骨格筋肥大に及ぼす影響

大野 善隆1, 横山 真吾1, 後藤 勝正2 (1.豊橋創造大学, 2.豊橋創造大学大学院)

キーワード:筋肥大, 乳酸, 乳酸受容体

【はじめに,目的】骨格筋は可塑性に富み,運動(筋収縮)により筋肥大が生じるが,その分子機構の全貌は未だ解明されていない。筋収縮の際に骨格筋細胞は乳酸を産生・分泌し,筋細胞由来の乳酸は血中に移行して様々な器官で利用される。乳酸受容体G protein-coupled receptor 81(GPR81)は脂肪細胞に豊富に存在し,GPR81の活性化はcAMP濃度低下を介して,脂肪分解を抑制する。一方,骨格筋細胞にもGPR81は存在するため,乳酸は筋細胞自身にも影響を及ぼすことが示唆されるが,その作用は明らかになっていない。近年,GPR81作動薬を脂肪細胞や骨格筋細胞に負荷すると,GPR81を介してextracellular signal-regulated kinase 1/2(Erk1/2)が活性化することが報告された。Erk1/2は骨格筋肥大に寄与する細胞内シグナル伝達因子の1つと考えられているが,乳酸がErk1/2を介して骨格筋肥大を引き起こすかは明らかになっていない。そこで本研究では,培養骨格筋細胞を用いて,Erk1/2の抑制が乳酸刺激による骨格筋肥大に及ぼす影響について検討し,乳酸刺激による骨格筋肥大におけるErk1/2の役割を明らかにすることを目的とした。

【方法】実験対象にはマウス筋芽細胞由来C2C12を用いた。筋芽細胞を播種し増殖培地にて増殖させた後,分化培地にて培養し筋管細胞に分化させた。乳酸ナトリウム(乳酸,0~20mM),GPR81のアゴニストである3,5-ジヒドロキシ安息香酸(3,5-Dihydroxybenzoic acid:3,5-DHBA)を分化培地に添加し,乳酸刺激による骨格筋肥大におけるGRP81の関与を検討した。さらに,乳酸刺激による骨格筋肥大におけるErk1/2の役割を検討するために,乳酸およびU0126(Erk1/2阻害剤)を分化培地に添加した。各物質添加後に筋管細胞の直径を測定し,protease inhibitorとphosphatase inhibitorを含むタンパク質抽出液を用いて筋細胞を回収した。筋細胞におけるタンパク質量をBradford法により測定すると共に,ウェスタンブロット法によりErk1/2リン酸化レベルを評価した。実験で得られた測定値の比較には,一元配置分散分析および多重比較検定を用いた(有意水準5%)。

【結果】乳酸は濃度依存性に筋管細胞直径を増加させた。3,5-DHBAも乳酸と同様に,筋管細胞直径を有意に増加させた。さらに,乳酸ならびに3,5-DHBAは筋細胞のErk1/2リン酸化レベルを有意に増加させた。一方,U0126によるErk1/2の抑制は,乳酸による筋管細胞直径の増大を抑制した。

【結論】乳酸による骨格筋肥大効果には,乳酸受容体GPR81を介したErk1/2活性化が関与することが示唆された。本研究の一部は日本学術振興会科学研究費(挑戦的萌芽,16K12942,16K13022;基盤C,26350818)ならびに内藤記念科学振興財団「内藤記念科学奨励金・研究助成」,豊橋創造大学大学院健康科学研究科「先端研究」の助成を受けて実施された。