第52回日本理学療法学術大会

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日本運動器理学療法学会 » 口述発表

[O-MT-01] 口述演題(運動器)01

2017年5月12日(金) 11:00 〜 12:00 B4会場 (東京ベイ幕張ホール No. 8・9)

座長:森口 晃一(一寿会西尾病院リハビリテーション部)

日本運動器理学療法学会

[O-MT-01-3] 人工膝関節置換術後1年における歩行速度に関連する因子
―同年代の健常者より速くなるために必要な術側機能の検討―

濱田 涼太1, 南角 学1, 細江 拓也1, 布留 守敏2, 伊藤 宣2, 中村 伸一郎2, 栗山 新一2, 池口 良輔1,2, 松田 秀一1,2 (1.京都大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.京都大学医学部附属病院整形外科)

キーワード:変形性膝関節症, 人工膝関節置換術, 歩行速度

【はじめに,目的】

人工膝関節置換術(以下,TKA)後の理学療法では,膝関節機能の回復を図りながら歩行能力の向上を目指す。一般に,理学療法により獲得できる歩行速度は術後や退院後のADL能力を決定することから,歩行速度に着目した評価や介入は重要である。TKA術後において,効率的に歩行速度の向上を図るためには術後の歩行速度に関連する因子を明確にすることが必要であるが,これらの因子を詳細に検討した報告は少ない。本研究の目的は,TKA術後1年における歩行速度に関わる因子を術側の機能から検討することとした。


【方法】

対象はTKAを施行し同様の理学療法を実施した女性119名(年齢72.4±8.9歳)であった。術後1年の評価項目として術側の膝関節屈曲・伸展可動域,術側の膝関節屈曲・伸展筋力,術側の片脚立位時間を測定した。膝関節屈曲・伸展筋力はIsoforce GT330(OG技研社製)により等尺性筋力を測定し,トルク体重比(Nm/kg)にて算出した。また,2011年度版Knee Society Score(以下,KSS)を使用し,術側の膝の状態と満足度,期待度,活動性を評価した。さらに,術後1年でTimed up and go test(以下,TUG)を実施し,対象をRosemaryらが示したTUGの年代別健常者平均値より速い者をA群,遅い者をB群に分類した。各測定項目の両群間の比較には,対応のないt検定とマン・ホイットニーのU検定を行い,有意差が認められた項目を説明変数,歩行速度を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。


【結果】

両群の割合はA群46名(39%),B群73名(61%)であった。術側の膝関節伸展可動域(A群-2.0±3.1°,B群-3.0±4.8°)と片脚立位時間(A群17.4±11.4秒,B群10.0±10.3秒)は,A群のほうが有意に大きい値を示した。術側の膝関節屈曲・伸展筋力はA群(屈曲0.67±0.83Nm/kg,伸展1.32±0.40Nm/kg)がB群(屈曲0.44±0.17Nm/kg,伸展0.98±0.33Nm/kg)よりも有意に高い値を示した。また,KSSのうち膝の状態(A群20.3±4.4点,B群17.7±5.3点),満足度(A群27.6±8.1点,B群23.1±8.3点),活動性(A群71.5±14.7点,B群52.8±18.5点)はA群がB群よりも有意に高い値を示した。一方,その他の項目は両群間で有意差を認めなかった。さらに,ロジスティック回帰分析の結果,歩行速度を規定する因子として,術側の膝関節伸展可動域,膝関節伸展筋力,KSS(膝の状態,活動性)が有意な項目として抽出された。


【結論】

本研究の結果,TKA術後1年で約4割の症例が同年代の健常者よりも歩行速度が速かった。さらに,これらの症例の特徴として,術側の膝の状態・膝関節伸展可動域・膝関節伸展筋力といった総合的な機能が良好であるとともに術後の活動性が高いことが示された。このようにTKA術後に歩行速度が健常人よりも速くなる条件としては,術側膝関節の総合的な機能の回復と術後の活動性の向上が必要であり,術後の理学療法介入の一助になり得ると考えられた。