[O-MT-04-6] 上殿皮神経障害による腰臀部痛が疑われた症例の臨床所見と理学療法の短期的効果について
痛みの原因部位による病態および治療内容の違いに着目して
Keywords:上殿皮神経, 理学療法, 病態
【はじめに,目的】
上殿皮神経は,内側枝,中間枝,外側枝の3枝から成り,臀部に分布する皮神経である。これまで上殿皮神経は内側枝が胸腰筋膜で絞扼され,腰臀部痛が生じると考えられてきた。一方,中間枝や外側枝も胸腰筋膜で絞扼される可能性があるとの報告や上殿皮神経は牽引される事でも腰臀部痛が発生すると報告されており,病態が複数存在する可能性が示唆されているが,3枝がそれぞれどの程度の割合で,どのように障害されているのかは不明である。また,痛みの原因部位の鑑別を行い,理学療法を実施した報告は,渉猟し得た範囲では見当たらない。本研究は,上殿皮神経障害による腰臀部痛が疑われた症例に対して,3枝がそれぞれ痛みの原因となっている頻度を調査した。また,痛みの原因部位を鑑別し理学療法を実施した結果,臨床所見や治療内容・効果に違いがあるのかどうかについて調査した。
【方法】
対象は平成26年6月から平成28年9月までの間で,上殿皮神経障害による腰臀部痛が疑われた当施設利用者33名36側とした。内訳は,男性22名,女性11名,平均年齢78.1±8.1(63~87)才であった。上殿皮神経障害の鑑別テストは林の方法を基に行い,3枝に対して①強い圧痛とともに腰臀部痛が再現②臀部周囲の皮膚を遠位へ引き離した際に圧痛が増強③皮膚を近位へ寄せた際に圧痛が減弱の3点を認めた際に陽性とした。理学療法は胸腰筋膜の柔軟性改善等,絞扼刺激改善を目的とした治療と神経が分布する臀部の皮下組織の滑走性改善等,牽引刺激改善を目的とした治療を行った。内側枝,中間枝,外側枝で鑑別テストが陽性であった者をそれぞれ,M群,I群,L群の3群に分け(複数の枝で陽性であった者はそれぞれの群に分類)比較を行った。調査内容は各群の数,既往歴,罹患期間,疼痛誘発動作,症状消失の有無と治療回数,鑑別テストが陰性となった治療内容とした。統計学的解析にはカイ2乗検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
3群の内訳は,M群23側,I群とL群は19側であり有意差を認めなかった。既往歴,罹患期間,疼痛誘発動作は3群間に有意差を認めなかった。全例で一時的な症状の消失を認め,治療回数は平均M,L群1.4±0.82,I群1.4±0.87(全て1~4)回で有意差を認めなかった。治療内容は3群共に牽引刺激の改善を目的とした治療が絞扼刺激改善を目的とした治療より有意に多かった。また牽引刺激の改善を目的とした治療は,M,I群が大殿筋筋膜と皮下組織の滑走性改善が有意に多かった。一方,L群は中殿筋筋膜と皮下組織の滑走性改善と大殿筋筋膜と皮下組織の滑走性改善の差を認めなかった。
【結論】
上殿皮神経障害は3枝全てが同程度に原因となり,理学療法が有効である可能性が示唆された。また,全ての枝で牽引刺激が原因となる確率が高く,内側枝と中間枝は大殿筋筋膜と皮下組織,外側枝は中殿筋・大殿筋筋膜と皮下組織の滑走性改善が有効である可能性が示唆された。
上殿皮神経は,内側枝,中間枝,外側枝の3枝から成り,臀部に分布する皮神経である。これまで上殿皮神経は内側枝が胸腰筋膜で絞扼され,腰臀部痛が生じると考えられてきた。一方,中間枝や外側枝も胸腰筋膜で絞扼される可能性があるとの報告や上殿皮神経は牽引される事でも腰臀部痛が発生すると報告されており,病態が複数存在する可能性が示唆されているが,3枝がそれぞれどの程度の割合で,どのように障害されているのかは不明である。また,痛みの原因部位の鑑別を行い,理学療法を実施した報告は,渉猟し得た範囲では見当たらない。本研究は,上殿皮神経障害による腰臀部痛が疑われた症例に対して,3枝がそれぞれ痛みの原因となっている頻度を調査した。また,痛みの原因部位を鑑別し理学療法を実施した結果,臨床所見や治療内容・効果に違いがあるのかどうかについて調査した。
【方法】
対象は平成26年6月から平成28年9月までの間で,上殿皮神経障害による腰臀部痛が疑われた当施設利用者33名36側とした。内訳は,男性22名,女性11名,平均年齢78.1±8.1(63~87)才であった。上殿皮神経障害の鑑別テストは林の方法を基に行い,3枝に対して①強い圧痛とともに腰臀部痛が再現②臀部周囲の皮膚を遠位へ引き離した際に圧痛が増強③皮膚を近位へ寄せた際に圧痛が減弱の3点を認めた際に陽性とした。理学療法は胸腰筋膜の柔軟性改善等,絞扼刺激改善を目的とした治療と神経が分布する臀部の皮下組織の滑走性改善等,牽引刺激改善を目的とした治療を行った。内側枝,中間枝,外側枝で鑑別テストが陽性であった者をそれぞれ,M群,I群,L群の3群に分け(複数の枝で陽性であった者はそれぞれの群に分類)比較を行った。調査内容は各群の数,既往歴,罹患期間,疼痛誘発動作,症状消失の有無と治療回数,鑑別テストが陰性となった治療内容とした。統計学的解析にはカイ2乗検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
3群の内訳は,M群23側,I群とL群は19側であり有意差を認めなかった。既往歴,罹患期間,疼痛誘発動作は3群間に有意差を認めなかった。全例で一時的な症状の消失を認め,治療回数は平均M,L群1.4±0.82,I群1.4±0.87(全て1~4)回で有意差を認めなかった。治療内容は3群共に牽引刺激の改善を目的とした治療が絞扼刺激改善を目的とした治療より有意に多かった。また牽引刺激の改善を目的とした治療は,M,I群が大殿筋筋膜と皮下組織の滑走性改善が有意に多かった。一方,L群は中殿筋筋膜と皮下組織の滑走性改善と大殿筋筋膜と皮下組織の滑走性改善の差を認めなかった。
【結論】
上殿皮神経障害は3枝全てが同程度に原因となり,理学療法が有効である可能性が示唆された。また,全ての枝で牽引刺激が原因となる確率が高く,内側枝と中間枝は大殿筋筋膜と皮下組織,外側枝は中殿筋・大殿筋筋膜と皮下組織の滑走性改善が有効である可能性が示唆された。