第52回日本理学療法学術大会

講演情報

日本運動器理学療法学会 » 口述発表

[O-MT-05] 口述演題(運動器)05

2017年5月12日(金) 16:50 〜 17:50 A6会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室303)

座長:山中 正紀(北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野)

日本運動器理学療法学会

[O-MT-05-6] 変形性膝関節症に対する外来理学療法の効果
シングルケーススタディー

阪本 良太 (社会医療法人寿楽会大野記念病院リハビリテーション部)

キーワード:膝OA, QOL, 費用対効果

【目的】1例の両変形性膝関節症(OA)患者に対して1年間の外来理学療法を行い,QOLおよび費用対効果を含め,その効果を検証したので報告する。


【方法】症例は70歳の男性である。5年ほど前から左膝痛が出現し,時々右膝痛を自覚しながら症状が経年増悪していた。水腫,疼痛が増強・持続するようになった為,理学療法が追加処方された。立位FTA188度,Grade4の左膝内側型末期OAがあり,長時間立位,長距離歩行,しゃがみ込み動作時の左膝前内側部,外側部,後方部の疼痛が主な訴えであった。また股関節内旋のtightnessがみられ,内反モーメントを助長するようなアライメントを呈していた。治療介入として,左膝の症状緩和,右膝の症状出現の予防を目的に,大腿四頭筋の強化,内反モーメントの減少を目的としたアプローチ,減量に向けた有酸素運動の推奨を含めた生活動作指導を行った。介入は1単位の理学療法を週1~2回の頻度で行った。効果検証のために,膝関節可動域,膝伸展筋力,10m最速歩行時間,6分間歩行,QOLおよび変形性膝関節症患者機能尺度(JKOM)を評価した。評価は介入開始時および1年後に行った。QOLはEuroQOLの点数から効用値を換算した。また1年間にかかった膝OAに関する診療費の総額とリハビリ診療費を集計し,効用値の変化から増分費用効果比(1QALY延長に必要な費用)を算出し,費用対効果の分析を行った。


【結果】介入開始時の膝関節屈曲角度は右155度,左135度,伸展は右-5度,左-15度であった。膝伸展筋力については,右0.113 Nm/kg,左0.100Nm/kgであった。10m最速歩行速度は8.6秒で,6分間歩行は403mであった。JKOMの点数は54点,EuroQOLの効用値は0.370であった。1年後のレントゲンにおいて,左膝について内側裂隙狭小化のわずかな進行がみられていたものの,疼痛は軽減した状態を維持しており,長時間立位時,しゃがみ込み動作時の疼痛の減少がみられ,家事動作全般の行い易さを実感していた。膝関節可動域については,右の制限はなくなり,左膝屈曲は150度,伸展は-10度と改善していた。膝伸展筋力については右0.133 Nm/kg,左0.126Nm/kgと向上していた。10m最速歩行速度は7.7秒で,6分間歩行は426mであった。JKOMの点数は47点,EuroQOLの効用値は0.587と向上がみられた。1年間にかかった診療費の総額は932,861円であった。リハビリ診療にかかった医療費は222,640円であった。増分費用効果比から得られた1QALY延長するためにかかる費用は,1,025,991円であった。諸外国では1QALYあたり500~1000万円が推奨閾値の目安となっており,今回の値はそれよりも少なく,費用対効果のある介入であったことが示唆された。


【結論】今回の1症例を通して,変形性膝関節症に対する継続した外来理学療法介入は,費用対効果の観点からも効果的な介入であると考えられた。ただし当然ながらそのためには効果を引き出すための妥当な理学療法が展開される必要がある。