第52回日本理学療法学術大会

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日本運動器理学療法学会 » 口述発表

[O-MT-07] 口述演題(運動器)07

2017年5月12日(金) 18:10 〜 19:10 A6会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室303)

座長:石田 和宏(我汝会えにわ病院リハビリテーション科)

日本運動器理学療法学会

[O-MT-07-5] 超音波療法による新鮮骨折の治療促進効果の検討

鈴木 崚太1, 崎谷 直義2, 高野 祥子2, 島谷 俊亮2, 小笠原 慎1, 岩澤 裕之2,3, 野村 将人2, 脇本 祥夫2, 小原 雄太2, 水野 絵里子1, 森山 英樹4 (1.神戸大学医学部保健学科理学療法学専攻, 2.神戸大学大学院保健学研究科, 3.聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部, 4.神戸大学生命・医学系保健学域)

キーワード:骨折, 超音波療法, ラット

【はじめに,目的】厚生労働省の国民生活基礎調査(2013年)によると,介護・支援が必要となった方の全体の11.8%は「転倒・骨折」が原因であり,臨床現場でも骨折は理学療法の対象となることが多い。骨折に対する超音波療法は,0.03 W/cm2の低出力超音波(LIPUS)が既に臨床応用されている。しかし,LIPUSは細胞の分化を促進する働きをもつが,細胞を増殖することができない。これは,細胞に弱い物理的刺激を加えると分化するという報告と一致する。骨折治癒過程において細胞増殖は欠かせない。細胞に生理的範囲内での強い刺激を加えると増殖するという報告があることから,超音波の強度を上げることで細胞が増殖し,より効果的な治癒が得られるという着想を得た。そこで,本研究では,0.5W/cm2,1.0W/cm2,2.0W/cm2の強度で治癒促進効果が認められるかどうかを検討した。




【方法】合計12匹のWistar系雄性ラット(15週齢,体重350kg)の両大腿骨閉鎖性骨折モデルを作成し,片側の大腿骨に超音波治療を28日間(20分/日)行った。治療側を0.5 W/cm2群(n=4),1.0 W/cm2群(n=4),2.0 W/cm2群(n=4),に無作為に分け,反対側を対象群(n=12)とした。実験期間終了後,大腿骨を採取し,μCT撮影を行い,その後凍結包埋したサンプルから非脱灰未固定切片を作製した。μCTによって三次元再構築された組織像とヘマトキシリン・エオジン染色を行った切片上で骨折治癒過程の進行度を観察した。




【結果】骨折治癒過程の進行に伴って形成される,骨折間隙の線維骨の架橋は,0.5W/cm2群で3/4例,対象群で9/12例認められた。一方で,1.0 W/cm2群と2.0 W/cm2群では骨折間隙が残存しているものが多く,線維骨の架橋は1/4例ずつしか認められなかった。また,0.5W/cm2群では,対象群と比較して,骨折仮骨が縮小しており,骨リモデリングがより進行している所見が認められた。現在,上記の形態学的評価に加えて,μCTによる骨密度の測定,骨芽細胞と破骨細胞の局在を把握するために,それぞれアルカリ性フォスファターゼ染色と酒石酸抵抗性フォスファターゼ染色,骨の質を評価するためにI・II型コラーゲンの免疫染色を行い,詳細な分析を進めている。




【結論】現時点で結果の得られている形態学的評価において,LIPUSの0.03W/cm2だけではなく,より高強度の0.5W/cm2の超音波は骨折治癒の促進効果をもつが,1.0W/cm2と2.0W/cm2の高強度の超音波では骨折治癒を阻害してしまうことが明らかになった。超音波療法には,細胞増殖を促すことで,LIPUSよりも効率的に骨折治癒を促進できる可能性を秘めている。しかし,従来治療に用いられている1.0W/cm2と2.0W/cm2で有害事象がみられるため,これらの強度の超音波を骨折部周囲に適用する際には注意を要する。