第52回日本理学療法学術大会

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日本運動器理学療法学会 » 口述発表

[O-MT-09] 口述演題(運動器)09

2017年5月13日(土) 12:50 〜 13:50 B4会場 (東京ベイ幕張ホール No. 8・9)

座長:太田 進(星城大学リハビリテーション学部理学療法学専攻)

日本運動器理学療法学会

[O-MT-09-2] 歩行中の外的膝内転モーメントと片脚立位移行動作での生体力学的指標との関連

千葉 健1,2, 山中 正紀3, 寒川 美奈3, 齊藤 展士3, 由利 真2, 堀 弘明2, 佐橋 健人1,2, 遠山 晴一3 (1.北海道大学大学院保健科学院, 2.北海道大学病院リハビリテーション部, 3.北海道大学大学院保健科学研究院)

キーワード:変形性膝関節症, 外的膝内転モーメント, 片脚立位

【はじめに,目的】

歩行中の大きな外的膝内転モーメント(KAM)が変形性膝関節症(KOA)の発症および進行に関連することが報告されている。我々は,臨床で一般的に用いられる片脚立位動作に着目し,本動作中のKAMおよび支持側方向への骨盤・体幹傾斜が歩行時のKAM最大値に関連することを報告してきた。しかしながら,これまでの報告は健常成人を対象にしておりKOA患者での検討が課題であった。したがって本研究の目的は,片脚立位動作における生体力学的指標が歩行時のKAMに与える影響をKOA患者で検討することとした。

【方法】

対象は,KOA患者7名(女性7名,68.3±7.3歳,152.4±8.4cm,57.7±18.1kg)とした。動作課題は自然歩行と片脚立位への移行動作(以下,片脚立位課題),自然立位とし,赤外線カメラ6台と床反力計2枚の同期により記録した。片脚立位課題の開始肢位は自然立位とし,音刺激後出来るだけ速く片脚立位になるよう指示した。解析区間は音刺激から足底離地後1秒までとした。体表マーカーはHelen Hayes Setを用い,第2胸椎棘突起を追加した。歩行課題と片脚立位課題でのKAM最大値,片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜角度の最大値,膝関節レバーアーム長,自然立位での膝内転角度を算出し,骨盤・体幹傾斜は立脚側への傾斜を正とした。統計は,歩行中のKAM最大値とそれぞれ①片脚立位課題でのKAM最大値,②片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜角度,③片脚立位課題での膝関節レバーアーム長,④自然立位での膝内転角度との相関をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。

【結果】

歩行時KAM最大値と片脚立位課題でのKAM最大値(r=0.83,p<0.05)および自然立位での膝内転角度(r=0.82,p<0.05)と有意な相関を認めた。また,統計学的に有意では無かったが歩行時KAM最大値と片脚立位課題での膝関節レバーアーム長が中程度の相関を示した(r=0.55,p=0.20)。歩行時KAM最大値と片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜角度との間に相関は認められなかった。

【結論】

本研究では健常成人を対象とした我々の先行研究と同様,両課題中のKAMが相関した。本研究結果は片脚立位課題が歩行中の生体力学的挙動を反映する動作課題であることを示唆した。一方で,片脚立位課題での骨盤・体幹傾斜角度は歩行時KAMと有意な相関を認めず,我々の先行研究と異なる結果を示した。KOA患者では膝内転角度が歩行時KAMに与える影響が大きかったためと思われた。また,本研究は歩行時KAMに片脚立位課題中の膝関節レバーアーム長が関連する可能性を示唆した。レバーアーム長には骨盤・体幹傾斜角度や膝内転角度,足圧中心の位置,股関節内転・内旋等が関連するといわれている。本研究課題のKOA患者への応用では,体幹・骨盤の運動学的挙動の他に,他の要因も考慮に入れた評価が必要であると思われた。今後は症例数を増やして検討を継続する必要がある。