[O-MT-09-6] 変形性膝関節症患者の下肢運動調整能力と10m歩行速度の関連
65歳以上の女性を対象とした検討
Keywords:変形性膝関節症, 運動調整能力, 10m歩行速度
【はじめに,目的】
従来から,変形性膝関節症(膝OA)の筋力と臨床成績の相関が低いこと(和田1994)や筋力増強の症状改善効果がないこと(Callagha 1995)が報告されている。一方,膝OA患者の下肢運動調整能力に関して,膝の関節位置覚の低下(Barrett 1991)や下肢筋活動の協調性の異常(Hubley-Kozey 2009)が報告されている。我々は,高齢者の下肢運動調整能力を測定するために,PC画面上に描かれた目標軌跡(円・星)をマウスが内蔵された下肢装着デバイス(デバイス)を使用してなぞり,その指標:運動時間(MT)および目標軌跡からの逸脱面積(EA)を算出するシステム(下肢運動調整能力測定装置:装置)を作成した。指標の信頼性と妥当性(藁科2016)は確認されているが,膝OAを対象とした検討はされていない。本研究の目的は,膝OAを有する高齢者に対する装置による下肢運動調整能力と10m歩行速度との関連を検討することである。
【方法】
対象はH28年6月から8月に当院受診し片側膝OAと診断された65歳以上の高齢女性11名(平均年齢71.8歳,右膝OA6名,左膝OA5名)とした。対象はすべて独歩にて日常生活が自立していた。下肢運動調整能力の測定は椅子座位にて,測定足にデバイスを取り付け,股関節・膝関節90°を開始姿勢とした。目線の高さ前方1mのPCモニターに開始と終了場所が示された円・星のいずれかを写し,黒い線で示した目標軌跡に対し「できるだけ正確に」なぞるよう指示した。開始場所から終了場所のMT(秒)とEA(pixels)を記録した。10m歩行速度はリハ室に設置した歩行路でストップウォッチを使用して時間(秒)を計った。円・星コースのMTとEAにおける患側と健側の比較(Wilcoxon順位和検定),各指標と10m歩行速度との相関(Spearman順位相関係数検定)を検討した(有意水準は5%)。
【結果】
下肢運動調整能力の平均値(標準偏差),円のMTは患側30.0(23.3)秒,健側30.1(20.1)秒,EAは患側119612(8883)pixels,健側17798(6399)pixels,星のMTは患側43.3(21.3)秒,健側48.2(28.1)秒,EAは患側20650(6402)pixels,健側20070(7631)pixelsであった。全ての患側と健側の間に有意差はなかった。10m歩行速度は6.2(0.7)秒であった。相関分析において,10m最大歩行速度と星の健側EAとのみ有意な相関(rs=0.67,p=0.03)があった。
【結論】
従来,膝OAの下肢運動調整能力は低下するとされているが,本研究の対象者においては低下していなかった。理由として,患側と健側という要因に支持脚と機能脚という要因や腫脹の有無などの問題が交絡要因となった可能性が考えられる。健側の星におけるEAと10m歩行速度との関連があったということは,膝OAを有する高齢女性においては,健側下肢の運動調整能力が歩行能力と関連する要因であることを示す。膝OAに対する理学療法においては,患側のみならず,健側下肢に着目する必要があることを示唆する。
従来から,変形性膝関節症(膝OA)の筋力と臨床成績の相関が低いこと(和田1994)や筋力増強の症状改善効果がないこと(Callagha 1995)が報告されている。一方,膝OA患者の下肢運動調整能力に関して,膝の関節位置覚の低下(Barrett 1991)や下肢筋活動の協調性の異常(Hubley-Kozey 2009)が報告されている。我々は,高齢者の下肢運動調整能力を測定するために,PC画面上に描かれた目標軌跡(円・星)をマウスが内蔵された下肢装着デバイス(デバイス)を使用してなぞり,その指標:運動時間(MT)および目標軌跡からの逸脱面積(EA)を算出するシステム(下肢運動調整能力測定装置:装置)を作成した。指標の信頼性と妥当性(藁科2016)は確認されているが,膝OAを対象とした検討はされていない。本研究の目的は,膝OAを有する高齢者に対する装置による下肢運動調整能力と10m歩行速度との関連を検討することである。
【方法】
対象はH28年6月から8月に当院受診し片側膝OAと診断された65歳以上の高齢女性11名(平均年齢71.8歳,右膝OA6名,左膝OA5名)とした。対象はすべて独歩にて日常生活が自立していた。下肢運動調整能力の測定は椅子座位にて,測定足にデバイスを取り付け,股関節・膝関節90°を開始姿勢とした。目線の高さ前方1mのPCモニターに開始と終了場所が示された円・星のいずれかを写し,黒い線で示した目標軌跡に対し「できるだけ正確に」なぞるよう指示した。開始場所から終了場所のMT(秒)とEA(pixels)を記録した。10m歩行速度はリハ室に設置した歩行路でストップウォッチを使用して時間(秒)を計った。円・星コースのMTとEAにおける患側と健側の比較(Wilcoxon順位和検定),各指標と10m歩行速度との相関(Spearman順位相関係数検定)を検討した(有意水準は5%)。
【結果】
下肢運動調整能力の平均値(標準偏差),円のMTは患側30.0(23.3)秒,健側30.1(20.1)秒,EAは患側119612(8883)pixels,健側17798(6399)pixels,星のMTは患側43.3(21.3)秒,健側48.2(28.1)秒,EAは患側20650(6402)pixels,健側20070(7631)pixelsであった。全ての患側と健側の間に有意差はなかった。10m歩行速度は6.2(0.7)秒であった。相関分析において,10m最大歩行速度と星の健側EAとのみ有意な相関(rs=0.67,p=0.03)があった。
【結論】
従来,膝OAの下肢運動調整能力は低下するとされているが,本研究の対象者においては低下していなかった。理由として,患側と健側という要因に支持脚と機能脚という要因や腫脹の有無などの問題が交絡要因となった可能性が考えられる。健側の星におけるEAと10m歩行速度との関連があったということは,膝OAを有する高齢女性においては,健側下肢の運動調整能力が歩行能力と関連する要因であることを示す。膝OAに対する理学療法においては,患側のみならず,健側下肢に着目する必要があることを示唆する。