第52回日本理学療法学術大会

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日本運動器理学療法学会 » 口述発表

[O-MT-12] 口述演題(運動器)12

2017年5月13日(土) 16:50 〜 17:50 A6会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室303)

座長:東 裕一(高木病院リハビリテーション部)

日本運動器理学療法学会

[O-MT-12-2] 腹部筋群および骨盤底筋群の活動が膀胱の位置に与える影響

井出 愛実1,2, 佐藤 成登志1, 神田 賢1, 北村 拓也3, 多田 葉月4 (1.新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科, 2.医療法人愛広会, 3.新潟リハビリテーション大学医療学部リハビリテーション学科理学療法専攻, 4.新潟医療福祉大学保健学専攻理学療法分野)

キーワード:骨盤底筋群, 超音波画像診断装置, 腹圧性尿失禁

【はじめに,目的】

腹圧性尿失禁は腹圧が上昇した際に,腹圧コントロールが不良となり,尿道内圧よりも膀胱内圧が上回り生じるとされている。よって腹圧性尿失禁に対しての骨盤底筋群トレーニングとして,腹部筋群などの筋群とリンクさせた骨盤底筋群トレーニングが重要であると考えられる。しかし,腹部筋群を用いた骨盤底筋群トレーニングではエビデンスが不充分であり,推奨できるレベルでないとされている。骨盤底筋群に関する研究では,実際の骨盤底筋群の動きや膀胱の位置を見た研究は少なく,腹部筋群の活動によって,骨盤底筋群の働きや膀胱の位置がどのように変化するのかは明らかとされていない。よって本研究の目的を,超音波画像診断装置を用いて膀胱を撮影し,腹部筋群および骨盤底筋群の活動が膀胱の位置に及ぼす影響をリアルタイムで視覚的に明らかにすることとした。


【方法】

対象者は健常成人女性20名(年齢21.4歳±1歳)とした。課題動作は骨盤底筋群の随意収縮と主に腹部筋群の中でも腹横筋を収縮させることができるDraw-inとした。骨盤底筋群の機能評価には,超音波画像診断装置(ViamoSSA-640A)の3.5MHzコンベックスプローブを用いた。臍から10cm下方部に水平面から60°傾斜させプローブをあてた。被験者は測定の1時間前に,排尿後500ml飲水し,蓄尿した状態で行った。測定肢位は背臥位とし,骨盤底筋群の随意収縮では「おしりをすぼめるように」と指示し,Draw-inでは「お腹をすぼめるように」と指示し,骨盤底挙上量を測定した。各動作における骨盤底挙上量を比較するために,ウィルコクソン符号順位和検定を行った。なお有意水準は5%とした。


【結果】

骨盤底筋群の随意収縮がDraw-inよりも骨盤底挙上量が有意に増加した(p<0.01)。Draw-inでは骨盤底挙上量は減少し膀胱の下降がみられた。


【結論】

骨盤底筋群の随意収縮では,Draw-inよりも骨盤底挙上量が有意に増加した。このことから,骨盤底筋群の随意収縮を促すことによって,骨盤内の臓器が上昇し,骨盤底への負荷が軽減されることが示唆された。Draw-inでは,骨盤底筋群の随意収縮よりも骨盤底挙上量が有意に減少し,膀胱の位置が下降していた。このことからDraw-inによって膀胱などの骨盤内臓器が下降し,骨盤底へ圧が伝達されることが示唆された。しかし,腹筋群の収縮により骨盤底筋群が活動し,尿道内圧が増加するという報告がされている。よって腹部筋群の収縮は,骨盤底への負荷を増加させるが,尿道閉鎖圧は上昇すると考えられる。しかし,尿失禁の症状が出現している者に対しては,腹部筋群の収縮によって尿失禁のリスクが生じてしまうことが考えられる。よって,骨盤底筋群トレーニングでは腹部筋群の収縮よりも,骨盤底筋群の随意収縮を促すトレーニングが有効であると考えられる。