[O-MT-17-1] 人工股関節全置換術後5ヶ月で安定した片脚立位を保持するための股関節外転筋力の目標値の設定
―大規模データ(変形性股関節症女性256例)での検討―
Keywords:人工股関節全置換術, 片脚立位, 股関節外転筋力
【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(THA)後に除痛が図れても依然として跛行を呈する症例がおり,その多くは静的な片脚立位保持機能が低下している。片脚立位保持機能と筋力に関する調査は過去に報告されているが,症例数が十分とは言えず,股関節外転筋力の推移を明らかにした上で筋力改善の目標値を設定できているとは言い難い。今回は術前片脚立位でSignを呈した症例に限定し,術後に改善した症例と改善しなかった症例の筋力値の推移を比較することで,筋力増強介入の各時期における目標値を明確に設定することを目的とした。
【方法】
対象は本学附属4病院にて変股症の診断を受け,後方進入法初回THAを施行し術後合併症・中枢性疾患の既往がない女性310症例のうち,術前の片脚立位保持にて下記いずれかのSignを呈した256例(平均年齢66歳)とした。調査項目は年齢,BMI,入院期間,片脚立位保持機能(術前・術後5ヶ月),術側股関節外転トルク体重比(Nm/kg)(術前・術後2ヶ月・5ヶ月)とした。片脚立位保持機能評価は,バランスを保持する程度の示指での手すり支持は許可し5秒間保持させ,骨盤と両肩峰の前額面上の傾斜より,D/Tなし,T,D,DT,困難の5つに分類した。外転トルクはHand-held Dynamometerを用いベルト固定法にて股関節内外転中間位で等尺性筋力を計測した。次に,術後に片脚立位保持機能が改善しSignなしとなった症例(術後Signなし群)と術後もSignが残存した症例(術後Signあり群)に分類し,以下の比較検討を行なった。筋トルクは群間の差を一元配置分散分析にて検定し,また各時期におけるROC曲線を作図し曲線下面積AUCを算出した。統計ソフトはSPSS(Ver22.0)を使用し,有意水準を5%とした。
【結果】
術後Signなし群は107例,術後Signあり群は149例であった。BMI,入院期間は群間の差を認めなかった。外転トルク体重比(術後Signなし群/術後Signあり群)は,術前0.62±0.25/0.51±0.21(Nm/kg),術後2ヶ月0.81±0.28/0.65±0.26(Nm/kg),5ヶ月0.94±0.32/0.73±0.28(Nm/kg)であった。すべての時期で術後Signなし群が有意に高値を示した。また,術後2ヶ月ではカットオフ0.76 Nm/kg,AUC0.68(感度0.56特異度0.70),5ヶ月ではカットオフ0.83 Nm/kg,AUC0.71(感度0.64特異度0.70)と高い判別性を示した。
【結論】
本研究から術前にSignがあり・術後5ヶ月時にSignなしで片脚立位保持を可能とするための股関節外転筋力の目標値は術後2ヶ月で0.76 Nm/kg,術後5ヶ月で0.83 Nm/kgと示唆された。目標値(0.83 Nm/kg)を達成してもなおSignを呈する症例には外転筋力以外の面からの介入が必要と考える。
人工股関節全置換術(THA)後に除痛が図れても依然として跛行を呈する症例がおり,その多くは静的な片脚立位保持機能が低下している。片脚立位保持機能と筋力に関する調査は過去に報告されているが,症例数が十分とは言えず,股関節外転筋力の推移を明らかにした上で筋力改善の目標値を設定できているとは言い難い。今回は術前片脚立位でSignを呈した症例に限定し,術後に改善した症例と改善しなかった症例の筋力値の推移を比較することで,筋力増強介入の各時期における目標値を明確に設定することを目的とした。
【方法】
対象は本学附属4病院にて変股症の診断を受け,後方進入法初回THAを施行し術後合併症・中枢性疾患の既往がない女性310症例のうち,術前の片脚立位保持にて下記いずれかのSignを呈した256例(平均年齢66歳)とした。調査項目は年齢,BMI,入院期間,片脚立位保持機能(術前・術後5ヶ月),術側股関節外転トルク体重比(Nm/kg)(術前・術後2ヶ月・5ヶ月)とした。片脚立位保持機能評価は,バランスを保持する程度の示指での手すり支持は許可し5秒間保持させ,骨盤と両肩峰の前額面上の傾斜より,D/Tなし,T,D,DT,困難の5つに分類した。外転トルクはHand-held Dynamometerを用いベルト固定法にて股関節内外転中間位で等尺性筋力を計測した。次に,術後に片脚立位保持機能が改善しSignなしとなった症例(術後Signなし群)と術後もSignが残存した症例(術後Signあり群)に分類し,以下の比較検討を行なった。筋トルクは群間の差を一元配置分散分析にて検定し,また各時期におけるROC曲線を作図し曲線下面積AUCを算出した。統計ソフトはSPSS(Ver22.0)を使用し,有意水準を5%とした。
【結果】
術後Signなし群は107例,術後Signあり群は149例であった。BMI,入院期間は群間の差を認めなかった。外転トルク体重比(術後Signなし群/術後Signあり群)は,術前0.62±0.25/0.51±0.21(Nm/kg),術後2ヶ月0.81±0.28/0.65±0.26(Nm/kg),5ヶ月0.94±0.32/0.73±0.28(Nm/kg)であった。すべての時期で術後Signなし群が有意に高値を示した。また,術後2ヶ月ではカットオフ0.76 Nm/kg,AUC0.68(感度0.56特異度0.70),5ヶ月ではカットオフ0.83 Nm/kg,AUC0.71(感度0.64特異度0.70)と高い判別性を示した。
【結論】
本研究から術前にSignがあり・術後5ヶ月時にSignなしで片脚立位保持を可能とするための股関節外転筋力の目標値は術後2ヶ月で0.76 Nm/kg,術後5ヶ月で0.83 Nm/kgと示唆された。目標値(0.83 Nm/kg)を達成してもなおSignを呈する症例には外転筋力以外の面からの介入が必要と考える。