[O-NV-02-1] ボツリヌス療法は中枢性麻痺後の関節拘縮の予防と治療において有効であるが,筋萎縮を助長する
Keywords:脊髄損傷, 拘縮, A型ボツリヌス毒素
【はじめに,目的】中枢性麻痺後の関節拘縮の治療は,未だ確立されておらず,臨床上,よく難渋する。A型ボツリヌス毒素(BTX)は,中枢性麻痺後の痙縮治療に広く用いられ,中枢性麻痺後の関節可動域(ROM)制限を改善することが知られているが,その改善は,筋緊張が減弱したことによる見かけ上ではなく,真にROM制限の原因となる関節周囲組織の器質的変化を改善し得るか分かっていない。さらに,BTXが関節拘縮の予防に有効であるかについても不明である。そこで本研究では,BTXの予防および治療的介入が中枢性麻痺後のROM制限の原因となる関節周囲組織の器質的変化に及ぼす影響を検証した。【方法】10週齡Wistar系雄性ラットを,無処置の対照群,脊髄損傷のみを行う脊髄損傷群,脊髄損傷直後にBTXを投与する脊髄損傷・BTX予防群,脊髄損傷2週後にBTXを投与する脊髄損傷・BTX治療群に無作為に分けた。BTXは,膝関節屈筋群(大腿二頭筋,半膜様筋,半健様筋,薄筋,腓腹筋)に2週に1回の頻度で筋注した。対照群,脊髄損傷群,脊髄損傷・BTX予防群は実験開始2,4週後に,脊髄損傷・BTX治療群は実験開始4週後に,膝関節をまたぐ筋の切断前後の膝関節伸展ROM(伸展ROM)を測定し,その測定値から,筋による制限(筋性要因)と関節構成体による制限(関節性要因)をそれぞれ算出した。筋湿重量測定後の膝関節屈筋群と膝関節は,組織学的分析に用いて,筋線維横断面積と膝関節後方滑膜長を計測した。筋性要因,関節性要因の群間比較には,95%信頼区間を,その他の群間比較には,two-way ANOVAとTukey検定を用いた。有意水準は,0.05とした。【結果】脊髄損傷群と脊髄損傷・BTX予防群の伸展ROM制限と筋性要因は,対照群と比較して,有意に大きかった。一方で,脊髄損傷・BTX予防群の伸展ROM制限と筋性要因は,脊髄損傷群よりも有意に小さかった。また脊髄損傷群の伸展ROM制限は,2週から4週にかけて有意に増加したが,脊髄損傷・BTX予防群では有意差はみられなかった。脊髄損傷・BTX治療群の伸展ROM制限と筋性要因も,対照群と比較して,有意に大きかったが,脊髄損傷群よりは有意に小さかった。脊髄損傷群の筋湿重量と筋線維横断面積は,対照群と比較すると有意に小さく,脊髄損傷・BTX予防群と脊髄損傷・BTX治療群では,さらに有意に小さかった。特に,BTX投与2週以降の大腿二頭筋と半膜様筋の筋湿重量,半膜様筋と腓腹筋の筋線維横断面積の減少は,脊髄損傷群と比較して有意に大きかった。膝関節後方滑膜長は,いずれの群間でも有意差はみられなかった。【結論】BTXの予防および治療的介入はいずれも,関節拘縮を改善した。しかし,BTX単独では健常なROMと同程度までは改善せず,筋萎縮も助長された。したがって,中枢性麻痺後の関節拘縮に対するBTX療法を行う際には,ROM運動や,筋萎縮の予防効果のある神経筋電気刺激療法などの物理療法と併用しなければならないことが示唆された。