[O-NV-02-3] 完全脊髄損傷者に対する神経再生術後の理学療法経験(第2報)
Keywords:自家嗅粘膜移植, 装具療法, 筋電図バイオフィードバック
【はじめに,目的】
「自家嗅粘膜移植による損傷脊髄機能の再生治療」は2012年に厚生労働省から先進医療として認められ,その移植手術が既に実施されている。同移植手術に関するこれまでの報告では,移植手術単独では回復を期待できず,四肢機能の回復にはその再教育が必要であるとされている。我々は第47回日本理学療法士学術大会で自家嗅粘膜移植を受けた症例に対する理学療法経験について報告した。今回,2013年~2014年に同移植手術を受けた完全脊髄損傷者について報告する。
【方法】
2013年~2014年に自家嗅粘膜移植を受けた完全脊髄損傷者3名(年齢33.0±7.5歳;男:女=2:1;障害レベルTh5-Th12;ASIA-A 3名)を対象とした。対象者に対して,厚生労働省より認可を受けたプロトコールに従い,自家嗅粘膜移植手術前に2ヶ月間(術前理学療法),移植手術後に1年間の理学療法(術後理学療法)を行った。術前理学療法では長下肢装具(KAFO)等を用いた抗重力位での運動を行い,残存機能の向上と車椅子生活によって低下した体幹機能を改善することを目標にした。術後理学療法では術前と同様,装具を用いた立位・歩行とハンドエルゴメーター運動を,週20時間程度実施した。また,筋電図バイオフィードバックによる随意筋放電の誘発,麻痺域で誘発された筋の筋力強化を週8~10時間程度行った。歩行練習は両側KAFOを用いて平行棒内歩行より開始し,歩行器歩行,ロフストランド杖歩行へと進めた。水中での膝歩行や,吊り下げ型免荷装置を使用した歩行も週2回程度実施した。
術前理学療法開始時・終了時,術後理学療法終了時にASIA scoreと,様々な運動イメージ・肢位での筋放電の誘発を試みた。
【結果】
術前理学療法終了時,全例で両下肢とも随意収縮を認めず,ASIA scoreに変化を認めなかった。1年間の術後理学療法終了時には2名で両側の大腿四頭筋で随意収縮を認めた。ASIA scoreは術前理学療法終了時と比較して,sensory scoreに著明な変化を認めなかったが,motor scoreは3.7±2.6点改善した。
【結論】
我々は神経再生医療における理学療法の課題が2つあると捉えている。細胞や組織は移植すれば,それが直ちに再生となるわけではなく,生着,遊走,分化,機能回復の過程を経る。まず,第一の課題はそれらを促進する効果がある理学療法が求められる。さらに神経系は,そのヒト固有の径路や神経網が存在するという面があり,一度損傷され修復される場合は,その径路や神経網が,その人なりに再構築されなければならない。そこで第二の課題は新しい神経径路や神経網の再獲得に有効な理学療法である。我々は前者に対してハンドエルゴメーター運動,後者に対して筋電図バイオフィードバック,歩行練習を実施した。一定の効果を認めたが,今後も本研究の結果を指標として,どのような理学療法が理想的であるか再考が必要である。
「自家嗅粘膜移植による損傷脊髄機能の再生治療」は2012年に厚生労働省から先進医療として認められ,その移植手術が既に実施されている。同移植手術に関するこれまでの報告では,移植手術単独では回復を期待できず,四肢機能の回復にはその再教育が必要であるとされている。我々は第47回日本理学療法士学術大会で自家嗅粘膜移植を受けた症例に対する理学療法経験について報告した。今回,2013年~2014年に同移植手術を受けた完全脊髄損傷者について報告する。
【方法】
2013年~2014年に自家嗅粘膜移植を受けた完全脊髄損傷者3名(年齢33.0±7.5歳;男:女=2:1;障害レベルTh5-Th12;ASIA-A 3名)を対象とした。対象者に対して,厚生労働省より認可を受けたプロトコールに従い,自家嗅粘膜移植手術前に2ヶ月間(術前理学療法),移植手術後に1年間の理学療法(術後理学療法)を行った。術前理学療法では長下肢装具(KAFO)等を用いた抗重力位での運動を行い,残存機能の向上と車椅子生活によって低下した体幹機能を改善することを目標にした。術後理学療法では術前と同様,装具を用いた立位・歩行とハンドエルゴメーター運動を,週20時間程度実施した。また,筋電図バイオフィードバックによる随意筋放電の誘発,麻痺域で誘発された筋の筋力強化を週8~10時間程度行った。歩行練習は両側KAFOを用いて平行棒内歩行より開始し,歩行器歩行,ロフストランド杖歩行へと進めた。水中での膝歩行や,吊り下げ型免荷装置を使用した歩行も週2回程度実施した。
術前理学療法開始時・終了時,術後理学療法終了時にASIA scoreと,様々な運動イメージ・肢位での筋放電の誘発を試みた。
【結果】
術前理学療法終了時,全例で両下肢とも随意収縮を認めず,ASIA scoreに変化を認めなかった。1年間の術後理学療法終了時には2名で両側の大腿四頭筋で随意収縮を認めた。ASIA scoreは術前理学療法終了時と比較して,sensory scoreに著明な変化を認めなかったが,motor scoreは3.7±2.6点改善した。
【結論】
我々は神経再生医療における理学療法の課題が2つあると捉えている。細胞や組織は移植すれば,それが直ちに再生となるわけではなく,生着,遊走,分化,機能回復の過程を経る。まず,第一の課題はそれらを促進する効果がある理学療法が求められる。さらに神経系は,そのヒト固有の径路や神経網が存在するという面があり,一度損傷され修復される場合は,その径路や神経網が,その人なりに再構築されなければならない。そこで第二の課題は新しい神経径路や神経網の再獲得に有効な理学療法である。我々は前者に対してハンドエルゴメーター運動,後者に対して筋電図バイオフィードバック,歩行練習を実施した。一定の効果を認めたが,今後も本研究の結果を指標として,どのような理学療法が理想的であるか再考が必要である。