第52回日本理学療法学術大会

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日本神経理学療法学会 » 口述発表

[O-NV-06] 口述演題(神経)06

2017年5月12日(金) 18:10 〜 19:10 B3会場 (東京ベイ幕張ホール No. 6)

座長:松田 雅弘(城西国際大学福祉総合学部理学療法学科)

日本神経理学療法学会

[O-NV-06-4] 歩行周期に合わせた経頭蓋律動脳刺激が脳卒中後片麻痺者における歩行機能と歩行中の皮質脊髄路機能に与える影響
無作為化クロスオーバー比較試験

北谷 亮輔1,2, 小金丸 聡子3,4, 前田 絢香2, 三上 祐介3, 大畑 光司2, 松橋 眞生3, 美馬 達哉3,5, 山田 重人2 (1.関西リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 3.京都大学医学研究科附属脳機能総合研究センター, 4.京都大学医学部附属病院精神医学講座, 5.立命館大学大学院先端総合学術研究科)

キーワード:脳卒中, 皮質脊髄路, コヒーレンス

【はじめに,目的】

脳卒中後片麻痺者において歩行中の損傷側一次運動野や皮質脊髄路の活動量が増加する者ほど歩行機能が改善することが報告されている。一次運動野や皮質脊髄路は歩行中に周期的な活動をしていることから,近年,我々は歩行周期に合わせて律動的な脳刺激を行うことで健常者において歩行中の皮質脊髄路の興奮性が増加することを報告してきた。しかし,脳卒中後片麻痺者を対象に律動的な脳刺激が与える影響を検討した報告はない。そこで,本研究の目的は歩行周期に合わせた経頭蓋律動脳刺激(oscillatory transcranial direct current stimulation:otDCS)が脳卒中後片麻痺者の歩行機能と歩行中の皮質脊髄路機能に与える影響を検討することとした。

【方法】

対象は地域在住の慢性期脳卒中後片麻痺者8名(年齢65.0±4.1歳,発症後年数5.4±2.4年)とした。介入条件は1週間に2回,合計10回,10分間のトレッドミル歩行練習中にotDCSを行うReal刺激条件と,otDCSを各歩行練習開始後30秒間のみ行うSham刺激条件とし,無作為化クロスオーバー比較試験を行った。otDCS(電流強度0-2mAのsin波)は損傷側半球一次運動野の下肢領域に対して行い,麻痺側足底面のフットスイッチによる初期接地から歩行周期の周波数に合わせた刺激を開始した。両条件とも歩行練習中には遊脚期中の麻痺側前脛骨筋に対する末梢神経筋刺激を併用した。各条件における介入前後に平地10m歩行テストによる快適歩行速度と最大歩行速度,6分間歩行距離,筋活動に対する皮質脊髄路を介した下行性入力の程度を検討出来る筋電図間コヒーレンスを算出した。筋電図間コヒーレンスは6分間歩行中の安定した100歩行周期から麻痺側・非麻痺側の近位-遠位前脛骨筋間(TA-TA),内側-外側腓腹筋間,近位前脛骨筋-外側腓腹筋間で15-35HzのBeta帯域において算出した。統計解析は各値に対して介入条件と時期を2要因とした反復測定二元配置分散分析を用いて検討した。また,Real刺激条件において有意に変化した歩行指標の変化率と筋電図間コヒーレンスの変化率との関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。

【結果】

介入中1名が離脱したため,統計解析は7名の対象者で行った。分散分析の結果,6分間歩行距離に有意な交互作用が得られ,麻痺側TA-TAコヒーレンスに有意な時期の主効果と有意な交互作用が得られた。多重比較の結果,Real刺激条件において介入前と比較して介入後に6分間歩行距離と麻痺側TA-TAコヒーレンスが有意に増加した。また,Real刺激条件において6分間歩行距離の変化率と麻痺側TA-TAコヒーレンスの変化率に有意な正の相関が得られた。

【結論】

歩行周期の周波数に合わせたotDCSを用いた歩行練習によって歩行中の麻痺側前脛骨筋に対する皮質脊髄路を介した下行性入力が増加する脳卒中後片麻痺者ほど歩行距離が増加しており,歩行機能改善の神経学的背景として皮質脊髄路機能の改善が生じていた。