[O-NV-07-5] パーキンソン病患者の運動イメージ能力低下における身体活動能力の関与
Keywords:パーキンソン病, 見積もり誤差, 運動機能
【はじめに,目的】
パーキンソン病(PD)患者は,認知面の低下とは独立して運動イメージ能力が低下していることが報告されており,日常生活活動(ADL)能力の低下との関連が示唆されている(Cohen, et al., 2011)。しかしながら現在のところ,この運動イメージ能力の低下が,PD患者が持つ様々な病態とどのように関連しているかについては検証されていない。本研究では,ステップ動作による到達予測を運動イメージ課題として用い,予測と実測の誤差を生じさせる病態を検討するために,PD患者の病態の分析を行った。
【方法】
本研究の参加者は,Mini Mental State Examinationが24点以上で,Hoehn & Yahrの分類が1~4.5度のPD患者62名(男性34名,女性36名,平均年齢73.5±8.1歳)および健常高齢者109名(男性21名,女性88名,平均年齢72.9±6.9歳)であった。全参加者の前方への最大2歩距離を測定するが,測定前に最大2歩の予測距離をレーザーポインタで示してもらった。練習試行は予測に影響するため設けず,一回のみの試行とした。その他,PD患者にはパーキンソン病統一スケール(UPDRS)のPart I~ IIIを使用し,病態を数値化した。統計解析は,予測距離と実測距離の差を従属変数として実施した。PD患者の過大評価傾向を検証するために,過大評価した人数と過大評価しなかった人数の群間比較(PD患者群 vs. 健常高齢者群)をカイ2乗検定にて行った。また,PD患者の過大評価に関連する病態を検証するため,PD患者群の内,過大評価した群としなかった群の,UPDRS Part I~ IIIについて対応の無いT検定,Hoehn & Yahrの分類に対しては,Mann-Whitney U-testを行った。なお,有意水準はすべて5%とした。
【結果】
PD患者群は,健常高齢者群に比べて,有意に過大評価している人数が多かった(p<.01)。また,PD患者群で過大評価している者は,していない者に比べて,Hoehn & Yahrの分類(p<.05),UPDRS Part II(p<.01)およびPart III(p<.01)が有意に高かった。UPDRS Part Iについては両群間の違いを認めなかった(p>.05)。
【結論】
PD患者は,健常高齢者より過大評価しやすいことが示された。これは,PD患者は適切な運動イメージ想起が困難になっている可能性を示唆する。また,PD患者の過大評価傾向は,UPDRS Part Iが示す認知的要因や精神的要因は関与せず,PDの重症度やUPDRS Part IIやIIIに示すような,実際の身体活動能力(日常生活活動能力や運動機能)が関与している可能性が示された。これは,運動イメージ能力の低下の原因は,身体活動能力低下に伴う,自身の運動機能の認識のアップデートの不足であるという仮説(Sakurai, 2013)を支持する。今後は,PD患者の運動イメージ能力の低下を防ぐために,実運動の経験による運動能力の認識を更新することの有効性を検証する必要がある。
パーキンソン病(PD)患者は,認知面の低下とは独立して運動イメージ能力が低下していることが報告されており,日常生活活動(ADL)能力の低下との関連が示唆されている(Cohen, et al., 2011)。しかしながら現在のところ,この運動イメージ能力の低下が,PD患者が持つ様々な病態とどのように関連しているかについては検証されていない。本研究では,ステップ動作による到達予測を運動イメージ課題として用い,予測と実測の誤差を生じさせる病態を検討するために,PD患者の病態の分析を行った。
【方法】
本研究の参加者は,Mini Mental State Examinationが24点以上で,Hoehn & Yahrの分類が1~4.5度のPD患者62名(男性34名,女性36名,平均年齢73.5±8.1歳)および健常高齢者109名(男性21名,女性88名,平均年齢72.9±6.9歳)であった。全参加者の前方への最大2歩距離を測定するが,測定前に最大2歩の予測距離をレーザーポインタで示してもらった。練習試行は予測に影響するため設けず,一回のみの試行とした。その他,PD患者にはパーキンソン病統一スケール(UPDRS)のPart I~ IIIを使用し,病態を数値化した。統計解析は,予測距離と実測距離の差を従属変数として実施した。PD患者の過大評価傾向を検証するために,過大評価した人数と過大評価しなかった人数の群間比較(PD患者群 vs. 健常高齢者群)をカイ2乗検定にて行った。また,PD患者の過大評価に関連する病態を検証するため,PD患者群の内,過大評価した群としなかった群の,UPDRS Part I~ IIIについて対応の無いT検定,Hoehn & Yahrの分類に対しては,Mann-Whitney U-testを行った。なお,有意水準はすべて5%とした。
【結果】
PD患者群は,健常高齢者群に比べて,有意に過大評価している人数が多かった(p<.01)。また,PD患者群で過大評価している者は,していない者に比べて,Hoehn & Yahrの分類(p<.05),UPDRS Part II(p<.01)およびPart III(p<.01)が有意に高かった。UPDRS Part Iについては両群間の違いを認めなかった(p>.05)。
【結論】
PD患者は,健常高齢者より過大評価しやすいことが示された。これは,PD患者は適切な運動イメージ想起が困難になっている可能性を示唆する。また,PD患者の過大評価傾向は,UPDRS Part Iが示す認知的要因や精神的要因は関与せず,PDの重症度やUPDRS Part IIやIIIに示すような,実際の身体活動能力(日常生活活動能力や運動機能)が関与している可能性が示された。これは,運動イメージ能力の低下の原因は,身体活動能力低下に伴う,自身の運動機能の認識のアップデートの不足であるという仮説(Sakurai, 2013)を支持する。今後は,PD患者の運動イメージ能力の低下を防ぐために,実運動の経験による運動能力の認識を更新することの有効性を検証する必要がある。