[O-NV-09-4] 脳卒中患者における歩行のTrailing Limb Angleの構成因子―予備的研究―
Keywords:脳卒中, Trailing Limb Angle, 腓腹筋筋活動
【はじめに,目的】
脳卒中後の歩行速度の向上には麻痺側下肢の推進力が大きく影響することが知られ,この産生には立脚後期のTrailing Limb Angle(TLA:大転子から第5中足骨頭へのベクトルと垂直軸のなす角度)に依存した足関節底屈筋群の活動が重要とされる(Hsiao, 2015)。臨床上,TLAの構成には運動麻痺や感覚障害の程度などの多数の要因が複雑に関連することが経験され,各症例に最適なTLAの改善戦略を立てることは容易ではないと言える。また歩行の恐怖感は歩行速度や歩幅を減少させることから,TLAは心理面の影響を受けると推察される。本研究では,脳卒中患者におけるTLAに影響する因子を足関節底屈筋活動に加え,運動麻痺や感覚障害,筋緊張,歩行の恐怖感の側面から予備的に検証した。
【方法】
対象は当院に入院中の介助なく10m歩行が可能な脳卒中患者7名(男性:7名,年齢:69.3±14.1歳,発症からの経過週数:22.0±17.8週)とした。前後に予備路を設けた10m歩行路において快適速度での歩行を実施し,その際の動画と歩行速度,また麻痺側内側腓腹筋(MG-EMG)の筋活動を表面筋電計(Gait Judge System:パシフィックサプライ社)を用いサンプリング周波数1000Hzで計測した。得られた筋電図波形は,20-250Hzのバンドパスフィルターで処理した後,RMS波形に変換された。なお,対象者が普段使用している杖や下肢装具の使用は認めた。歩行中動画から立脚中期と後期を同定し,同相の筋電図RMS波形の平均値を算出した。また,歩行中動画から,大転子から第5中足骨頭へのベクトルと垂直軸のなす角度であるTLAを算出した。加えて,運動麻痺,感覚障害,足関節底屈筋の筋緊張,歩行の恐怖感の評価にはそれぞれFugl-Meyer Assessment下肢運動項目(LE-FMA)および下肢感覚項目,Modified Ashwarth Scale(MAS),modified Gait Efficacy Scale(mGES)を用いた。統計処理は,Pearsonの積率相関とSpearmanの順位相関分析を各評価項目間で実施し,有意水準は5%とした。
【結果】
相関分析の結果,TLAと歩行速度,立脚後期のMG-EMGは強く関連(r=.861,r=.865)し,MASは中等度の相関(rs=-.670)を認めた。一方で,TLAとLE-FMA(rs=.393),立脚中期のMG-EMG(r=.148),mGES(rs=-.107),FMA下肢感覚項目(rs=.108)との関連は小さかった。またLE-FMAは歩行速度と中等度の相関(rs=.679)を認めたが,MG-EMGとの関連は認めなかった。
【結論】
先行研究と同様にTLAと歩行速度,立脚後期のMG-EMGは強く関連することが示された。しかしTLAは歩行の恐怖心や感覚障害の程度と関連を示さなかった。一方,LE-FMAは歩行速度との関連を認めたがTLAとの関連性は見られなかった。これには歩行速度を増加させる上で,TLAの拡大を除く別の戦略を用いていた可能性が考えられる。今後は歩行速度やLE-FMAを層別化し,多数の評価項目による検討が課題とされる。
脳卒中後の歩行速度の向上には麻痺側下肢の推進力が大きく影響することが知られ,この産生には立脚後期のTrailing Limb Angle(TLA:大転子から第5中足骨頭へのベクトルと垂直軸のなす角度)に依存した足関節底屈筋群の活動が重要とされる(Hsiao, 2015)。臨床上,TLAの構成には運動麻痺や感覚障害の程度などの多数の要因が複雑に関連することが経験され,各症例に最適なTLAの改善戦略を立てることは容易ではないと言える。また歩行の恐怖感は歩行速度や歩幅を減少させることから,TLAは心理面の影響を受けると推察される。本研究では,脳卒中患者におけるTLAに影響する因子を足関節底屈筋活動に加え,運動麻痺や感覚障害,筋緊張,歩行の恐怖感の側面から予備的に検証した。
【方法】
対象は当院に入院中の介助なく10m歩行が可能な脳卒中患者7名(男性:7名,年齢:69.3±14.1歳,発症からの経過週数:22.0±17.8週)とした。前後に予備路を設けた10m歩行路において快適速度での歩行を実施し,その際の動画と歩行速度,また麻痺側内側腓腹筋(MG-EMG)の筋活動を表面筋電計(Gait Judge System:パシフィックサプライ社)を用いサンプリング周波数1000Hzで計測した。得られた筋電図波形は,20-250Hzのバンドパスフィルターで処理した後,RMS波形に変換された。なお,対象者が普段使用している杖や下肢装具の使用は認めた。歩行中動画から立脚中期と後期を同定し,同相の筋電図RMS波形の平均値を算出した。また,歩行中動画から,大転子から第5中足骨頭へのベクトルと垂直軸のなす角度であるTLAを算出した。加えて,運動麻痺,感覚障害,足関節底屈筋の筋緊張,歩行の恐怖感の評価にはそれぞれFugl-Meyer Assessment下肢運動項目(LE-FMA)および下肢感覚項目,Modified Ashwarth Scale(MAS),modified Gait Efficacy Scale(mGES)を用いた。統計処理は,Pearsonの積率相関とSpearmanの順位相関分析を各評価項目間で実施し,有意水準は5%とした。
【結果】
相関分析の結果,TLAと歩行速度,立脚後期のMG-EMGは強く関連(r=.861,r=.865)し,MASは中等度の相関(rs=-.670)を認めた。一方で,TLAとLE-FMA(rs=.393),立脚中期のMG-EMG(r=.148),mGES(rs=-.107),FMA下肢感覚項目(rs=.108)との関連は小さかった。またLE-FMAは歩行速度と中等度の相関(rs=.679)を認めたが,MG-EMGとの関連は認めなかった。
【結論】
先行研究と同様にTLAと歩行速度,立脚後期のMG-EMGは強く関連することが示された。しかしTLAは歩行の恐怖心や感覚障害の程度と関連を示さなかった。一方,LE-FMAは歩行速度との関連を認めたがTLAとの関連性は見られなかった。これには歩行速度を増加させる上で,TLAの拡大を除く別の戦略を用いていた可能性が考えられる。今後は歩行速度やLE-FMAを層別化し,多数の評価項目による検討が課題とされる。