第52回日本理学療法学術大会

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日本神経理学療法学会 » 口述発表

[O-NV-12] 口述演題(神経)12

2017年5月14日(日) 10:20 〜 11:20 A6会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室303)

座長:中 徹(群馬パース大学保健衛生学部理学療法学科), 座長:羽田 晋也(星ヶ丘医療センターリハビリテーション部)

日本神経理学療法学会

[O-NV-12-3] 不全脊髄損傷患者1症例の上肢運動機能障害に対するミラーセラピーの試み

澤井 康平, 大門 恭平 (岸和田盈進会病院リハビリテーションセンター)

キーワード:脊髄損傷, ミラーセラピー, 上肢機能

【はじめに,目的】

不全脊髄高位損傷では,上肢運動機能障害が残存し,ADLやQOLへ影響を及ぼす。近年,上肢運動機能障害に対して,脳卒中患者では課題指向型練習や電気刺激療法,ミラーセラピー(MT)が推奨されている(脳卒中ガイドライン2015)。中でも,MTは簡易的に臨床導入が可能で,手指運動機能障害に対する効果が報告されている(Yavuzer, 2008)。一方,脊髄損傷患者は脳卒中患者と異なり脳機能は保たれているものの,視覚的な運動錯覚を用いた介入研究は少なく,不全脊髄損傷患者に対してMTを実施した報告はない。よって,本研究の目的は不全脊髄損傷後の上肢運動機能障害に対してMTを実施し,臨床効果の有無を検討することである。

【方法】

対象は,不全脊髄損傷(C6,右優位の不全四肢麻痺)を呈し,受傷後約2か月が経過した77歳男性である。介入前の身体機能は,ASIA impairment scaleはC,ASIA上肢運動スコア(UEMS)は右13点/左17点,感覚は正常,FIMは55/126点(運動20点,認知35点)で日常生活において中~重度介助が必要であった。入院時から上肢に対して関節可動域練習や筋力増強練習,課題指向型練習,日常生活動作練習などの標準的なリハビリテーションを実施していたが,右手指運動機能障害が残存していた。そこで,右上肢を対象にMTを実施した。なお,左手関節と手指屈伸の自動運動は全可動域可能であった。研究デザインはAB型シングルケースデザインを用い,基礎水準期(A期),操作導入期(B期)とし,それぞれ2週間実施した。MTはミラーボックスを用い,自主練習にて1日30分間実施した。運動は,鏡に映る左上肢を注視しながら手関節と手指の屈曲伸展,手指対立運動,スポンジ握りとし,可能な限りの両側同時運動を行った。A期では鏡を使用せずにこれらの運動を実施した。また,介入期間中はこれらの課題に加えて標準的なリハビリテーションを実施した。評価項目は,UEMS,握力,簡易上肢機能検査(STEF:Simple Test for Evaluating Hand Function),Box and Block Test(BBT),9-Hole Peg Test(9-HPT),FIMのセルフケア6項目とし,MT実施中の運動錯覚の程度を8件法にて聴取した。評価は,A期前・A期後・B期後に実施した。

【結果】

STEFはA期前37点,A期後39点,B期後50点。9-HPTはA期前2分18秒,A期後2分20秒,B期後1分52秒。BBTはA期前36個,A期後39個,B期後42個。FIMのセルフケア項目はA期前10点,A期後12点,B期後19点であった。UEMS,握力は各評価期での変化を認めなかった。MT実施中の運動錯覚の程度は7/8であった。



【結論】

今回,不全脊髄損傷後に上肢運動機能障害を呈した1症例に対して,MTを導入した。その結果,MT導入前と比較しSTEFと9-HPTに著明な改善を認め,さらにFIMのセルフケア項目に改善を認めた。MTは脳卒中患者に対する効果が示されているが,不全脊髄損傷後の片側上肢運動機能が保たれている症例に対しては,手指運動機能障害を改善できる可能性が示唆された。