[O-NV-13-2] 脳卒中後片麻痺者において認知課題の難易度が姿勢制御に与える影響
Keywords:脳卒中, 姿勢制御, 二重課題
【はじめに,目的】
脳卒中後片麻痺者において立位でのバランス機能は日常生活において重要である。近年バランス練習に運動課題と認知課題を同時に行う二重課題(DT)を用いた研究が多く報告されている。DTにおいて運動課題と認知課題は相互に作用するため,各課題の適切な難易度の設定が必要であると考えられており,先行研究では健常者や高齢者を対象に計算や記憶課題の難易度によって姿勢の揺れが異なることが報告されている。しかし脳卒中後片麻痺者を対象に認知課題の難易度が姿勢制御に与える影響を検討した報告はない。そこで本研究の目的は脳卒中後片麻痺者において認知課題の難易度が不安定板上での姿勢制御に与える影響を検討することとした。
【方法】
対象は地域在住の慢性期脳卒中後片麻痺者15名(年齢55.2±12.0歳,発症年数7.3±4.5年,下肢Fugl-Meyer 21.6±4.7点,Mini Mental State Examination 27.0±2.5点)とした。運動課題は対象者に前後のみに揺れる不安定板(酒井医療社製DYJOC Board Plus)上で30秒間できるだけ不安定板が水平になるように立位保持させた。認知課題は単語の記憶課題を用い,まず各対象者の記憶機能を把握するために座位にて30秒間に10個提示した単語を記憶させ,その後回答できた数を最大記憶数とした。DT時にはeasy条件として最大記憶数の20%,medium条件として最大記憶数の50%,maximum条件として最大記憶数だけ単語を提示することで認知課題の難易度を3段階に設定した。測定項目は運動課題のみの条件(ST),DT3条件の計4条件をランダムに実施し,不安定板の傾斜角度から角度のばらつき(角度SD),角度の変位速度(角速度),角度の規則性(SampEn)を算出した。また両側の近位・遠位前脛骨筋(TA1・2),内側・外側腓腹筋(MG・LG),ヒラメ筋に表面筋電図を貼付し,平均筋活動量を算出した。さらに皮質脊髄路からの入力を反映する15-35Hz帯域における筋電図間コヒーレンスを両側のTA1-TA2,MG-LG間で算出した。統計解析は各指標についてST条件とDT3条件の違いを検討するために反復測定一元配置分散分析を行った後,多重比較(Dunnett法)を行った。
【結果】
姿勢制御の不安定性を示す角度SD,角速度では条件要因に有意な主効果はみられなかった。SampEnでは有意な主効果がみられ,STよりもeasy条件が有意に低値を示した。非麻痺側のTA1-TA2間コヒーレンスでは有意な主効果がみられ,STよりもmaximum条件が有意に低値を示した。
【結論】
脳卒中後片麻痺者において不安定板上での姿勢制御時に二重課題を行うと姿勢の不安定性には変化がないものの,簡単な認知課題では姿勢制御は規則的になり,難しい認知課題では非麻痺側への皮質脊髄路の関与が小さくなった。姿勢制御戦略は認知課題の難易度に影響を受けており,脳卒中後片麻痺者において二重課題をバランス練習に用いるには認知課題の難易度を考慮する必要があることが示唆された。
脳卒中後片麻痺者において立位でのバランス機能は日常生活において重要である。近年バランス練習に運動課題と認知課題を同時に行う二重課題(DT)を用いた研究が多く報告されている。DTにおいて運動課題と認知課題は相互に作用するため,各課題の適切な難易度の設定が必要であると考えられており,先行研究では健常者や高齢者を対象に計算や記憶課題の難易度によって姿勢の揺れが異なることが報告されている。しかし脳卒中後片麻痺者を対象に認知課題の難易度が姿勢制御に与える影響を検討した報告はない。そこで本研究の目的は脳卒中後片麻痺者において認知課題の難易度が不安定板上での姿勢制御に与える影響を検討することとした。
【方法】
対象は地域在住の慢性期脳卒中後片麻痺者15名(年齢55.2±12.0歳,発症年数7.3±4.5年,下肢Fugl-Meyer 21.6±4.7点,Mini Mental State Examination 27.0±2.5点)とした。運動課題は対象者に前後のみに揺れる不安定板(酒井医療社製DYJOC Board Plus)上で30秒間できるだけ不安定板が水平になるように立位保持させた。認知課題は単語の記憶課題を用い,まず各対象者の記憶機能を把握するために座位にて30秒間に10個提示した単語を記憶させ,その後回答できた数を最大記憶数とした。DT時にはeasy条件として最大記憶数の20%,medium条件として最大記憶数の50%,maximum条件として最大記憶数だけ単語を提示することで認知課題の難易度を3段階に設定した。測定項目は運動課題のみの条件(ST),DT3条件の計4条件をランダムに実施し,不安定板の傾斜角度から角度のばらつき(角度SD),角度の変位速度(角速度),角度の規則性(SampEn)を算出した。また両側の近位・遠位前脛骨筋(TA1・2),内側・外側腓腹筋(MG・LG),ヒラメ筋に表面筋電図を貼付し,平均筋活動量を算出した。さらに皮質脊髄路からの入力を反映する15-35Hz帯域における筋電図間コヒーレンスを両側のTA1-TA2,MG-LG間で算出した。統計解析は各指標についてST条件とDT3条件の違いを検討するために反復測定一元配置分散分析を行った後,多重比較(Dunnett法)を行った。
【結果】
姿勢制御の不安定性を示す角度SD,角速度では条件要因に有意な主効果はみられなかった。SampEnでは有意な主効果がみられ,STよりもeasy条件が有意に低値を示した。非麻痺側のTA1-TA2間コヒーレンスでは有意な主効果がみられ,STよりもmaximum条件が有意に低値を示した。
【結論】
脳卒中後片麻痺者において不安定板上での姿勢制御時に二重課題を行うと姿勢の不安定性には変化がないものの,簡単な認知課題では姿勢制御は規則的になり,難しい認知課題では非麻痺側への皮質脊髄路の関与が小さくなった。姿勢制御戦略は認知課題の難易度に影響を受けており,脳卒中後片麻痺者において二重課題をバランス練習に用いるには認知課題の難易度を考慮する必要があることが示唆された。