第52回日本理学療法学術大会

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日本神経理学療法学会 » 口述発表

[O-NV-13] 口述演題(神経)13

2017年5月14日(日) 10:20 〜 11:20 B3会場 (東京ベイ幕張ホール No. 6)

座長:諸橋 勇(いわてリハビリテーションセンター機能回復療法部)

日本神経理学療法学会

[O-NV-13-4] 脳卒中片麻痺者の隙間通過方法と接触場所

室井 大佑1,2, 廣居 康博2, 小柴 輝晃2, 鈴木 洋平2, 川木 雅裕2, 樋口 貴広1 (1.首都大学東京人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域, 2.亀田リハビリテーション病院)

キーワード:脳卒中片麻痺, 障害物回避, 隙間通過行動

【はじめに,目的】歩行中に障害物との接触を避けるためには,身体と障害物との空間関係を正確に知覚し,歩行を適応的に調節する能力が求められる。本研究では,転倒歴のある脳卒中片麻痺者が,安全に狭い隙間を通過する能力をどの程度保有しているかを検証した。特に,狭い隙間に対して体幹を回旋した場合,麻痺側への荷重特性が通常歩行とは異なるため,適応的な調節がなされなければ,転倒リスクが高まることが懸念される。そこで本研究では,転倒歴のある脳卒中者の隙間通過行動について,ドアと接触率,ならびに三次元動作解析の観点から検証した。


【方法】参加者は,明らかな高次脳機能障害や認知機能障害がなく,歩行が自立している脳卒中片麻痺者23名。対象者を転倒あり群10名(平均年齢63.1±9.0歳,発症後月数19.4±21.5,下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS);III1名,IV7名,V2名)と,転倒なし群13名(平均年齢58.8±10.8歳,発症後月数12.0±21.1,下肢BRS;IV6名,V7名)の2群に分類した。参加者は2枚のドアで作られた隙間の手前4mに立ち,接触しないように通過した。隙間幅は5条件であった(肩幅の0.9,1.0,1.1,1,2,1.3倍)。参加者は各隙間幅を3試行通過した(計15試行)。従属変数はドアとの接触率,隙間の侵入方法(回旋なし,麻痺側侵入,非麻痺側侵入),接触場所(麻痺側,非麻痺側)とした。統計検定として,接触率にはグループ(転倒あり,転倒なし)×隙間幅の2要因分散分析を実施し,侵入方向と接触場所にはχ2乗検定を実施した。


【結果】ドアとの接触率においてグループ間の主効果がみられ(p<0.005),転倒あり群が転倒なし群に比べて有意に接触が多かった。身体の回旋を実施した試行における隙間の侵入方向の比率は,麻痺側侵入・非麻痺側侵入ともに同程度であり,転倒歴の有無による差は認められなかった。接触場所は,転倒あり群においてのみ特徴がみられ,回旋しないで通過した場合と非麻痺側から侵入した場合(麻痺側を後方にして通過)に麻痺側を接触させることが多く,麻痺側から侵入した場合は麻痺側の接触が少なかった(p<0.01)。

【結論】転倒歴のある脳卒中者はドアとの接触率が高く,回旋せずに隙間を通過することや非麻痺側からの侵入することが麻痺側の接触率を上げていた。このことは,回旋の必要性の判断を誤った可能性と,麻痺側を後方にしたことで,通過時の麻痺側への配慮(視覚認知や注意)が不十分となった可能性が考えられる。つまり,転倒歴のある脳卒中者は,転倒歴のない脳卒中者よりも障害物を正しく認識して適応的に歩行調節することが困難であり,とくに麻痺側の身体を適応させる能力が低下していると言える。この問題に対し,麻痺側から隙間に侵入することが接触率の軽減に寄与する可能性が示唆された。