[O-RS-02-6] 消化器がん患者における術前の全身性炎症は術後呼吸器合併症の予測因子か?
キーワード:消化器がん, 全身性炎症, 呼吸器合併症
【はじめに,目的】
消化器がん患者における周術期リハビリテーションでは,術後の呼吸器合併症(肺炎・無気肺)を予防することが重要である。また近年では,がん細胞が炎症性サイトカインを出すことによって引き起こされる全身性炎症が予後不良因子であると報告されている。そこで本研究では,消化器がん患者における術前の全身性炎症と術後呼吸器合併症発症の関連性を検討することを目的とした。
【方法】
対象は2014年4月から2016年3月までに当院外科に入院し,消化器がんに対して開腹手術を施行した88名とした。術前より歩行不能であった症例,自宅外から入院した症例は除外した。調査項目は,年齢・性別・身長・体重・診断名・腫瘍ステージ・手術時間・出血量・手術後にベッド上端座位を実施するまでにかかった日数(臥床期間)・手術後に歩行を実施するまでにかかった日数(歩行開始期間)・術後呼吸器合併症の有無とした。呼吸器合併症の有無は,医師により肺炎または無気肺と診断されカルテに記載されたものを有りとした。また全身性炎症の指標としては,術前のC反応性蛋白(CRP)及び血清アルブミン値より求められるGlasgow Prognostic Score(GPS)を用いた。GPSはCRP<1.0 mg/lかつalbumin>3.5 g/lが0:正常群,CRP≧1.0mg/lまたはAlbumin≦3.5g/dlが1:予備群,CRP≧1.0mg/lかつAlbumin≦3.5g/dlが2:炎症群に分けられる。対象を呼吸器合併症の有無により2群に分類した。統計は統計解析ソフト改変Rコマンダーを使用し,2群間の比較にはMann-WhitneyのU検定及びχ2検定を行った。次にロジスティック回帰分析にて術後の呼吸器合併症発症に関連する因子の抽出を行った。統計学的分析では有意水準は5%とした。
【結果】
2群の属性は,呼吸器合併症有り群は10名(男性8名,女性2名),平均年齢76.4歳(67-86歳)で,無し群は78名(男性53名,女性25名),平均年齢72.6歳(50-91歳)であった。2群間の比較において,有り群の手術時間が有意に長く,有り群では217.9分±80.1(平均値±標準偏差),無し群では298.7分±152.3であった。GPSに関しては,有り群は0:0名,1:5名,2:5名で,無し群は0:38名,1:28名,2:12名で有意差を認めた。ロジスティック回帰分析においては手術時間(オッズ比1.010),GPS(オッズ比5.951)で有意差を認めた。
【結論】
本研究の結果より,消化器がん患者における術前の全身性炎症は,術後呼吸器合併症発症の予測因子である可能性が示唆された。術後の呼吸器合併症の原因は,手術時の全身麻酔による呼吸機能の抑制や挿管による気道内分泌物の増加などが挙げられる。がん患者における全身性炎症の存在は低身体機能との関連が予想されており,また低身体機能である症例は術後の合併症発症率が高率であるとされている。本研究結果も,これらの先行研究を支持するものであった。今後,消化器がん患者における全身性炎症と身体機能の関連についての更なる研究が必要と考える。
消化器がん患者における周術期リハビリテーションでは,術後の呼吸器合併症(肺炎・無気肺)を予防することが重要である。また近年では,がん細胞が炎症性サイトカインを出すことによって引き起こされる全身性炎症が予後不良因子であると報告されている。そこで本研究では,消化器がん患者における術前の全身性炎症と術後呼吸器合併症発症の関連性を検討することを目的とした。
【方法】
対象は2014年4月から2016年3月までに当院外科に入院し,消化器がんに対して開腹手術を施行した88名とした。術前より歩行不能であった症例,自宅外から入院した症例は除外した。調査項目は,年齢・性別・身長・体重・診断名・腫瘍ステージ・手術時間・出血量・手術後にベッド上端座位を実施するまでにかかった日数(臥床期間)・手術後に歩行を実施するまでにかかった日数(歩行開始期間)・術後呼吸器合併症の有無とした。呼吸器合併症の有無は,医師により肺炎または無気肺と診断されカルテに記載されたものを有りとした。また全身性炎症の指標としては,術前のC反応性蛋白(CRP)及び血清アルブミン値より求められるGlasgow Prognostic Score(GPS)を用いた。GPSはCRP<1.0 mg/lかつalbumin>3.5 g/lが0:正常群,CRP≧1.0mg/lまたはAlbumin≦3.5g/dlが1:予備群,CRP≧1.0mg/lかつAlbumin≦3.5g/dlが2:炎症群に分けられる。対象を呼吸器合併症の有無により2群に分類した。統計は統計解析ソフト改変Rコマンダーを使用し,2群間の比較にはMann-WhitneyのU検定及びχ2検定を行った。次にロジスティック回帰分析にて術後の呼吸器合併症発症に関連する因子の抽出を行った。統計学的分析では有意水準は5%とした。
【結果】
2群の属性は,呼吸器合併症有り群は10名(男性8名,女性2名),平均年齢76.4歳(67-86歳)で,無し群は78名(男性53名,女性25名),平均年齢72.6歳(50-91歳)であった。2群間の比較において,有り群の手術時間が有意に長く,有り群では217.9分±80.1(平均値±標準偏差),無し群では298.7分±152.3であった。GPSに関しては,有り群は0:0名,1:5名,2:5名で,無し群は0:38名,1:28名,2:12名で有意差を認めた。ロジスティック回帰分析においては手術時間(オッズ比1.010),GPS(オッズ比5.951)で有意差を認めた。
【結論】
本研究の結果より,消化器がん患者における術前の全身性炎症は,術後呼吸器合併症発症の予測因子である可能性が示唆された。術後の呼吸器合併症の原因は,手術時の全身麻酔による呼吸機能の抑制や挿管による気道内分泌物の増加などが挙げられる。がん患者における全身性炎症の存在は低身体機能との関連が予想されており,また低身体機能である症例は術後の合併症発症率が高率であるとされている。本研究結果も,これらの先行研究を支持するものであった。今後,消化器がん患者における全身性炎症と身体機能の関連についての更なる研究が必要と考える。