第52回日本理学療法学術大会

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[O-SP-03] 口述演題(スポーツ)03

膝関節

2017年5月13日(土) 14:10 〜 15:10 A4会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室301)

座長:吉田 昌平(京都学際研究所附属病院リハビリテーション科)

日本スポーツ理学療法学会

[O-SP-03-2] 膝前十字靭帯再建術後の移植腱と骨との固着不全の要因について
―膝関節可動域の推移に着目して―

染川 晋作1, 尾上 裕樹1, 堀 大輔1, 小山 泰宏1, 山﨑 祐1, 森田 正輝1, 松下 悦子1, 塩塚 彩1, 前田 朗2 (1.成田整形外科病院リハビリテーション科, 2.成田整形外科病院整形外科)

キーワード:膝前十字靭帯再建術, 移植腱と骨との固着不全, 膝関節可動域

【はじめに,目的】

当院では,膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後約1年の関節鏡所見で,大腿骨孔開口部における移植腱と骨との固着不全(以下Gap)について評価している。先行研究では,術後固定期間を従来の1週間から2週間へと変更したことでGapを減少できた事,前内側線維束(以下AMB)と後外側線維束(以下PLB)の両方に明らかなGapが存在すると術後約1年での膝前方動揺性の患健側差が大きくなることを報告した。

本研究の目的は,Gapの要因について膝関節可動域(以下ROM)に着目して調査を行い,ACL再建後の理学療法を考える一助とする事である。


【方法】

対象は,2008年7月から2015年3月の間に当院でACL再建術(自家半腱様筋を使用した鏡視下解剖学的二重束再建術)を施行し,Gapと膝ROMの評価が可能であった132膝とした。Gapの評価は,Grade0(Gapが存在しない)からGrade2(明らかに存在する)までの3段階とし,術後約1年の関節鏡視下にて同一医師がAMB,PLBのそれぞれに対して行った。このGradeにより対象を群分けし,AMBとPLBがGrade0の膝をA群(73膝),AMB,PLBの片方または両方にGrade1のGapが存在する膝をB群(40膝),AMB,PLBの片方または両方がGrade2の膝をC群(19例)の3群とした。

調査項目は,自動運動による膝伸展・屈曲ROM(術前,術後2週,3週,4週,12週)とし,上記3群間で比較した。

統計学的処理は,群と膝ROMの評価期間を2要因(3×5)とする分割プロット分散分析を行い,事後検定としてBonferroni検定を行った。統計ソフトはR2.8.1を用いて,有意水準5%とした。


【結果】

膝伸展ROMでは,3群間に有意差はなかった。

膝屈曲ROMにおいて,術後2週のA群74°と比較してB群81°(p=.041),C群86°(p=.019),術後3週のA群103°と比較してB群112°(p=.003),C群119°(p=.001),術後4週のA群117°と比較してB群126°(p=.003),C群130°(p=.001)と有意差を認め,B群とC群には有意差はなかった。術後12週では3群間に有意差はなかった。

【結論】

A群と比較して,B群とC群は術後2週,3週,4週の膝ROMの改善が有意に早かった。しかし,術後12週ではA群に対するB群,C群の有意差は消失していた。本研究よりACL再建術後における早期の膝ROMの改善は,Gapを生じさせる一要因であると示唆された。また,A群のように膝ROMの改善が緩徐であっても関節拘縮を認めず,移植腱と骨との固着にも有利であった。ACL再建術後の膝ROMについては,組織学的な所見を考慮した上で適切な目標角度とその期間設定の検討が必要である。