[P-DM-05-5] 糖尿病神経障害における簡易診断基準は糖尿病患者のバランス機能を反映する
Keywords:糖尿病神経障害, 簡易診断基準, 重心動揺
【はじめに,目的】
高齢糖尿病患者では非糖尿病の高齢者と比べて転倒および骨折のリスクが高いことが報告されている。転倒する要因として,糖尿病の合併症である末梢神経障害による影響が考えられている。糖尿病神経障害(DN:diabetic neuropathy)は糖尿病患者において高頻度に併発する合併症であり,その診断は,臨床症状,身体所見,電気生理学的検査などを組み合わせて行われる。DNは世界的に数々診断基準があり,本邦では糖尿病性神経障害を考える会の提唱する簡易診断基準が一般的に用いられており,「自覚症状,アキレス腱反射の低下,振動覚の低下」の3項目から診断する。DNとバランス機能についての報告は様々あるが,その一方,本邦で一般的に用いられている簡易診断基準を用いたDNの有無とバランス機能の関連については明らかでない。そのため本研究では,簡易診断基準を用いたDNの有無と静止立位時の重心動揺の関連について検討することを目的とした。
【方法】
当院に入院した運動療法可能な2型糖尿病患者90名(男/女:50/40名,年齢:65.9±11.7歳,BMI:26.6±6.5kg/m2,HbA1c:9.2±2.2%,罹病期間:13.0±10.1年)を対象とした。測定項目はバランス機能として,開眼条件および閉眼条件での静止立位時の単位軌跡長を求めた。測定には床反力計1基(AMTI社,USA)を使用し,床反力計上に裸足で立位となり,開眼・閉眼条件でそれぞれ静止立位30秒間のデータを算出した。DNの有無は簡易診断基準を用いて,「自覚症状,アキレス腱反射の低下,振動覚の低下」の3項目のうち2項目以上を満たす場合をDNあり群,1項目以下の場合をDNなし群とした。統計学的解析として2群間の比較には対応のないt検定,カイ二乗検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
簡易診断基準を用いて2群に分類した結果,DNあり群35名,DNなし群55名であった。性別,年齢,BMI,罹病期間では2群間に有意な差を認めなかった。HbA1cにおいて2群間に有意な差を認めた(DNあり群9.7±3.0% vs DNなし群8.9±1.5%:P=0.005)。単位軌跡長は開眼では,2群間に有意な差を認めず(DNあり群3.48±1.76 vs DNなし群3.06±1.46cm/秒:P=0.176),閉眼では,DNあり群はDNなし群と比較し有意に高値を示した(5.44±2.95 vs 4.18±1.76cm/秒:P=0.014)。
【結論】
本研究は簡易診断基準によるDNの有無と重心動揺の関係について検討を行った。その結果,DNの有無によりバランス機能に差があることが明らかとなった。DNあり群ではDNなし群と比較し閉眼において単位軌跡長が有意に延長した。閉眼状態では,視覚情報を遮断され,前庭感覚,体性感覚が重要となるため,DNを有するものでは,閉眼状態でのバランス機能が低下することが推察された。簡易診断基準を用いたDNの有無はバランス機能に差を認めることから,日常診療において簡便に評価可能である簡易診断基準は糖尿病患者のバランス機能の評価にも利用できる可能性がある。
高齢糖尿病患者では非糖尿病の高齢者と比べて転倒および骨折のリスクが高いことが報告されている。転倒する要因として,糖尿病の合併症である末梢神経障害による影響が考えられている。糖尿病神経障害(DN:diabetic neuropathy)は糖尿病患者において高頻度に併発する合併症であり,その診断は,臨床症状,身体所見,電気生理学的検査などを組み合わせて行われる。DNは世界的に数々診断基準があり,本邦では糖尿病性神経障害を考える会の提唱する簡易診断基準が一般的に用いられており,「自覚症状,アキレス腱反射の低下,振動覚の低下」の3項目から診断する。DNとバランス機能についての報告は様々あるが,その一方,本邦で一般的に用いられている簡易診断基準を用いたDNの有無とバランス機能の関連については明らかでない。そのため本研究では,簡易診断基準を用いたDNの有無と静止立位時の重心動揺の関連について検討することを目的とした。
【方法】
当院に入院した運動療法可能な2型糖尿病患者90名(男/女:50/40名,年齢:65.9±11.7歳,BMI:26.6±6.5kg/m2,HbA1c:9.2±2.2%,罹病期間:13.0±10.1年)を対象とした。測定項目はバランス機能として,開眼条件および閉眼条件での静止立位時の単位軌跡長を求めた。測定には床反力計1基(AMTI社,USA)を使用し,床反力計上に裸足で立位となり,開眼・閉眼条件でそれぞれ静止立位30秒間のデータを算出した。DNの有無は簡易診断基準を用いて,「自覚症状,アキレス腱反射の低下,振動覚の低下」の3項目のうち2項目以上を満たす場合をDNあり群,1項目以下の場合をDNなし群とした。統計学的解析として2群間の比較には対応のないt検定,カイ二乗検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
簡易診断基準を用いて2群に分類した結果,DNあり群35名,DNなし群55名であった。性別,年齢,BMI,罹病期間では2群間に有意な差を認めなかった。HbA1cにおいて2群間に有意な差を認めた(DNあり群9.7±3.0% vs DNなし群8.9±1.5%:P=0.005)。単位軌跡長は開眼では,2群間に有意な差を認めず(DNあり群3.48±1.76 vs DNなし群3.06±1.46cm/秒:P=0.176),閉眼では,DNあり群はDNなし群と比較し有意に高値を示した(5.44±2.95 vs 4.18±1.76cm/秒:P=0.014)。
【結論】
本研究は簡易診断基準によるDNの有無と重心動揺の関係について検討を行った。その結果,DNの有無によりバランス機能に差があることが明らかとなった。DNあり群ではDNなし群と比較し閉眼において単位軌跡長が有意に延長した。閉眼状態では,視覚情報を遮断され,前庭感覚,体性感覚が重要となるため,DNを有するものでは,閉眼状態でのバランス機能が低下することが推察された。簡易診断基準を用いたDNの有無はバランス機能に差を認めることから,日常診療において簡便に評価可能である簡易診断基準は糖尿病患者のバランス機能の評価にも利用できる可能性がある。