[P-DM-06-3] 糖尿病網膜症患者における動体視力が視覚関連QOLに及ぼす影響
Keywords:糖尿病網膜症, 動体視力, 視覚関連QOL
【はじめに,目的】
糖尿病網膜症は糖代謝異常により引き起こされる糖尿病に特有の細小血管合併症の一つである。一般住民を対象とした久山町研究では,2007年において40歳以上の糖尿病患者の15.0%に網膜症が発症している。さらに視機能の観点からも,日本における失明原因の19.0%を占め,緑内障に次いで第2位である重篤な疾患である。
近年,眼科領域でもQOLの概念が提唱されており,視覚関連QOLとして緑内障や糖尿病網膜症患者を対象にいくつかの報告がされている。これまでの報告では,糖尿病網膜症患者では静止視力の低下とQOLが関連していることが明らかとなっている。
一方で,動体視力は人間が動くものを見続ける能力であり,加齢により低下し,運動や運転などの活動において重要とされている。しかし,糖尿病患者を対象に動体視力と視覚関連QOLの関連を検討した報告はない。
従って,本研究では糖尿病患者の静止視力・動体視力と視覚関連QOLを評価し,糖尿病網膜症の有無による違いを明らかにすることを目的とした。
【方法】
当院に入院した2型糖尿病患者33名(男性:17名,女性:16名,年齢:65.9±12.3歳,BMI:27.3±8.8kg/m2,HbA1c:8.9±2.9%,罹病期間:10.8±6.8年)を対象とした。増殖網膜症を認める群を「網膜症有り」群,網膜症を認めない群を「網膜症無し」群とし,単純網膜症及び増殖前網膜症の患者は対象から除外した。糖尿病網膜症の重症度は眼科医により診断された。
身体機能として膝伸展筋力,重心動揺検査によるバランス機能を測定した。視覚機能として静止視力・動体視力を測定した。また,視覚関連QOL評価としてVFQ-25日本語版の自己記入式を用いた。VFQ-25は視覚関連QOLの12領域(下位尺度)と25の項目が用意されており,それぞれ質問ごとの数字を得点換算して使用した。
2群間の比較には対応の無いt検定を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
網膜症有り群は9名,無し群は24名であった。
網膜症の有無では身体機能,静止視力に有意な差を認めなかった(p>0.05)。
動体視力は網膜症有り群が16.1±2.2 rpmであり,無し群22.0±7.9 rpmに比べ有意に低下した(p=0.03)。
網膜症有り群では,VFQ-25の下位項目である近見視力による行動(60.8±19.7 vs 75.3±13.0点:p=0.01),遠見視力による行動(62.5±14.3 vs 80.6±14.9点:p<0.01),周辺視力(60.0±26.9 vs 80.0±17.7点:p=0.01),VFQ-25の総合得点(733.1±145.9 vs 852.5±151.6点:p=0.04)が網膜症無し群に比べ有意に低値であった。
【結論】
糖尿病網膜症の有無では身体機能,静止視力に有意な差は認めなかったが,網膜症有り群では動体視力,VFQ-25による視覚関連QOLの低下を認めた。糖尿病増殖網膜症患者は運動療法の積極的な対象にはならないが,動体視力の低下によりQOLの低下をきたしているため,動体視力を向上させる理学療法プログラムを立案する必要がある。
糖尿病網膜症は糖代謝異常により引き起こされる糖尿病に特有の細小血管合併症の一つである。一般住民を対象とした久山町研究では,2007年において40歳以上の糖尿病患者の15.0%に網膜症が発症している。さらに視機能の観点からも,日本における失明原因の19.0%を占め,緑内障に次いで第2位である重篤な疾患である。
近年,眼科領域でもQOLの概念が提唱されており,視覚関連QOLとして緑内障や糖尿病網膜症患者を対象にいくつかの報告がされている。これまでの報告では,糖尿病網膜症患者では静止視力の低下とQOLが関連していることが明らかとなっている。
一方で,動体視力は人間が動くものを見続ける能力であり,加齢により低下し,運動や運転などの活動において重要とされている。しかし,糖尿病患者を対象に動体視力と視覚関連QOLの関連を検討した報告はない。
従って,本研究では糖尿病患者の静止視力・動体視力と視覚関連QOLを評価し,糖尿病網膜症の有無による違いを明らかにすることを目的とした。
【方法】
当院に入院した2型糖尿病患者33名(男性:17名,女性:16名,年齢:65.9±12.3歳,BMI:27.3±8.8kg/m2,HbA1c:8.9±2.9%,罹病期間:10.8±6.8年)を対象とした。増殖網膜症を認める群を「網膜症有り」群,網膜症を認めない群を「網膜症無し」群とし,単純網膜症及び増殖前網膜症の患者は対象から除外した。糖尿病網膜症の重症度は眼科医により診断された。
身体機能として膝伸展筋力,重心動揺検査によるバランス機能を測定した。視覚機能として静止視力・動体視力を測定した。また,視覚関連QOL評価としてVFQ-25日本語版の自己記入式を用いた。VFQ-25は視覚関連QOLの12領域(下位尺度)と25の項目が用意されており,それぞれ質問ごとの数字を得点換算して使用した。
2群間の比較には対応の無いt検定を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
網膜症有り群は9名,無し群は24名であった。
網膜症の有無では身体機能,静止視力に有意な差を認めなかった(p>0.05)。
動体視力は網膜症有り群が16.1±2.2 rpmであり,無し群22.0±7.9 rpmに比べ有意に低下した(p=0.03)。
網膜症有り群では,VFQ-25の下位項目である近見視力による行動(60.8±19.7 vs 75.3±13.0点:p=0.01),遠見視力による行動(62.5±14.3 vs 80.6±14.9点:p<0.01),周辺視力(60.0±26.9 vs 80.0±17.7点:p=0.01),VFQ-25の総合得点(733.1±145.9 vs 852.5±151.6点:p=0.04)が網膜症無し群に比べ有意に低値であった。
【結論】
糖尿病網膜症の有無では身体機能,静止視力に有意な差は認めなかったが,網膜症有り群では動体視力,VFQ-25による視覚関連QOLの低下を認めた。糖尿病増殖網膜症患者は運動療法の積極的な対象にはならないが,動体視力の低下によりQOLの低下をきたしているため,動体視力を向上させる理学療法プログラムを立案する必要がある。